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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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48.怪しい集団とガール


 それにしても見れば見るほど怪しい。

 フード付きの黒ローブで全身をすっぽり覆い、仮面で顔を隠しているので表情も性別も何も分かりません。正体を隠すにしても、これだけ怪しいと逆に人目を引いて不便なのではないでしょうか。現にわたし達に見つかってジロジロ見られているわけですし。


 こういうのって、いったいどちらのお店で購入したんでしょうね。

 別にわたしが買う気は毛頭ありませんが、こんな不審者変身グッズがそこらのお店に並んでいるとも思えません。まさか黒い布地を買ってきて自分達の手で地道にチクチク針仕事をしたのでしょうか。仮面に関しては材質が分かりませんが、土を捏ねて焼くなり木の板を彫るなりも決して楽ではないはずです。古式ゆかしいテンプレ的な悪役をやるのにも、きっと日々の地道な苦労があるのでしょうねぇ……いえ、まだ彼らが本当に悪人なのかも分からないのですけれど。



「む、皆の衆! 我らを見ている連中がいるぞ!?」


「なにっ、怪しい奴らめ!」



 さっさと立ち去ってから近くの衛兵さんにでも報告するのが正しい判断だったのでしょうが、ついつい妙な方向に思考が流れていたせいか離脱する機を逃してしまったようです。

 黒衣の集団もようやく我々に気が付いたのか、露骨に警戒しつつ誰何してきやがりました。まさか、ここまで怪しい面々に逆に『怪しい奴』呼ばわりされるとは思いませんでしたよ。



「どうしましょうかね? 今ならダッシュで撒けそうな気はしますけど」



 なにしろ長いローブの裾を自分で踏んづけて転びそうになったり、路地裏に乱雑に積まれていた木箱から飛び出た釘か何かに衣装を引っかけて脱出するのに悪戦苦闘しているので、今からでも逃げようと思えば簡単に逃げられそうです。

 まあ当然と言えば当然ですが、見るからに怪しい彼らも別に普段からこの姿で生活しているわけではないのでしょう。明らかに着慣れていない格好のせいで、こちらが何もしていないのに勝手に消耗しています。



「ぜぇ……はぁ……ククク、逃げずに残っているとは良い度胸だ」


「気の毒だが……はぁはぁ……我らの姿を見た者は生かしておけぬ掟が……すぅ、はぁ……あるのだ……この仮面、息がしにくい。空気穴とか開けちゃ駄目かな?」


「はあ、そうなんですか? それは困りましたねぇ」



 というか、自分達からノコノコ路地の外まで出てきたせいで、黒衣の集団は通りを行き来する人々に盛大に見られまくっています。仮に掟とやらを遵守しようとするなら、口を封じるべき対象は少なく見積もっても数十人、恐らくは軽く百人を超えるのではないでしょうか。黒衣の集団も十人くらいはいるとはいえ、どう考えても現実的ではありません。



「あと、そもそも皆さんそういう服装で顔も体型も隠してますし。それでも姿を見た判定になるんですか?」


「え……どうだったっけ? 誰か知ってる?」


「さあ? そういうの決めたボスがいれば分かるんだけど……あ、ちょっと! ちょっと待って! 急いで相談するから少し待っているがよい!」


「はいはい、なるべく手短にお願いしますね」



 あまりにも緊張感がなさすぎる。

 あと掟の設定を詰め切れていないせいで段取りが悪いですね。

 最初に見た瞬間から薄々思ってはいましたが、この黒衣の集団は本当に悪人の集まりというわけではなさそうです。声質からして年齢もわたしと同じか少し下くらいでしょうし。


 前世でも中学二年生前後の内向的な少年少女が罹患しがちな精神疾患というのがありましたが、ここにいる彼ら彼女ら(話し声から察するに女性もいたようです)も恐らくはその同類。なんとなく闇っぽい雰囲気の格好良さに憧れて、同好の士で仲良くゴッコ遊びをしていただけなのではないでしょうか。だとしたら、遊びの邪魔をして悪いことをしてしまったかもしれません。



「ククク……協議の結果、今回だけは貴様らを見逃してやろう。我らの寛大さに感謝するがよい」


「それはそれは、ご親切にどうもありがとうございます」



 せっかく見逃してくれるそうですし、ここは御言葉に甘えて早々に退散すべきでしょう。この分だと官憲への通報も必要なさそうです。



「いやぁ、世の中には変わった方々がいるものですね」


「重心や足運びも完全に素人だ。ただの暇人の集まりだったな」


「うふふ、ほら、悪い方々ではなかったでしょう?」



 と、それぞれマー君とレイさんとクーちゃんの言。

 結果的には、人を見た目で判断すべきではないというクーちゃん説が大正解でしたね。善人とは言い難くとも、あれだけ要領が悪い面々が満足に悪事を働けるとも思えません。


 実際、その印象は間違っていなかったはずです。

 ですが、世の中には悪気も能力もないのに間の悪さだけで奇跡的なまでの大ポカをやらかして、世間様に多大なる迷惑をかけてしまう人間もいるのです。さっきの彼らはまさにその好例。否、悪例でしょうか。


 なんにせよ、この時点のわたしには知る由もありませんでしたが。


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