47.路地裏を見るガール
そんなこんなで本日の予定は一日かけての食べ歩き。
普段の街でも色々と美味しい物を食べてはきましたが、やはり王都は食文化においても最先端を行くのでしょう。お城で食べたのとは方向性は異なれど、他ではなかなか食べられない美味で溢れておりました。
「いやぁ、並んだ甲斐があったねぇ。思ったよりメニューの種類も多かったし」
「ええ、今日はこの時期にしては気温が高めですし、氷菓をいただくのには良い日和でしたわね。あの甘酸っぱい果実の風味といったら」
たとえば、今しがた食べてきたアイス屋さん。
なんでも店舗の地下に保存庫と調理場を兼ねた氷室があるとかで、ごく当たり前のようにアイスクリームやシャーベットの類を販売していたのです。冬場に雪や氷を蓄えておいたり、氷を作れる魔法使いに依頼して、一年を通して冷気を維持しているとかどうとかで。
修道院の先輩に聞いた時点で存在を知ってはいましたが、こうして実際に味わうと驚きもひとしおでした。地元で過ごしていた子供時代には、アイス恋しさのあまり冬になると綺麗そうな雪を集めて野イチゴの汁をかけたかき氷の劣化版などを自作した覚えもありますが、あんなチャチな子供騙しではありません。
使われている素材の質も上々。
昨日の和食をいただいた時にも話題に出た郊外の実験農場から、店主の伝手で定期的にフルーツの類を仕入れているらしいと順番待ちをしている時に周囲のお客さんが言っていました。
王様はご自身の道楽のためみたいに言っていましたが、実際のところは個人的な趣味のために留まらず、王都の皆さんにもこういった形で実験成果のお裾分けをしているのでしょう。
「さて、それじゃ甘い物の後だし次はしょっぱいのがいいかな?」
「ええと、さっき見せてもらったおすすめリストの中で、なおかつこの近くだと、新鮮な海老の揚げ物か辛いソースで食べる焼き豚が当てはまりそうですかね」
「どっちも美味しそうだけど、せっかくだし普段は食べられない海の幸をなるべく食べておきたいかな。どれどれ、お店の場所は……っと」
なにしろ我々は揃いも揃って食べ盛りの十代半ば。
最初は同行を渋っていたクーちゃんやレイさんも、美味しい物や珍しい物を食べれば自然と気分が上向いてきたようです。正午を回った頃には味の感想や次に何を食べたいかなどの希望も積極的に出してくれるようになり、食べ歩きを提案したわたしとしても安心しました。
なにしろ、変装まで強要して強引に引っ張ってきた自覚はあったので、本音では迷惑なのではないかという疑問も最初のうちは正直ないわけではなかったのです。幸い、その考えは杞憂で済んだようですが。
「次のお店の場所は……あ、そこの路地を突っ切ったら近道っぽくないです?」
しいて問題点を挙げるとすれば、広大な王都を徒歩であちこち移動するのが大変だという点くらいでしょうか。なので、少しでも移動効率を上げるべく、こうして近道の提案などしてみたのですけれど。
「いや、それはやめておいたほうがいい」
「レイさん? はて、その心は?」
「王都にも治安が悪い場所はある。無論、荒事に巻き込まれても俺や近くにいる警護官が対処はするが、可能なら最初から危ない場所には近付かぬよう頼みたい」
なるほど、そういう事情なら急がば回れ。
ちょっとくらい遠回りでも、人通りの多い安全な道を選ぶが吉でしょう。
そんなわけで、わたしは一度目を向けた路地裏から視線を外そうとして……しかし、なにやら妙なモノが見えた気がして思わず二度見してしまいました。うん、見間違いではなかったみたいですけれど、果たして一介の通りすがりとしてはどう出たものか。
「りっちゃんさん? 何か気になるものでも?」
「あ、うん。マー君と、あと皆も、ちょっとあっちの路地の奥見てもらってもいい? もうビックリするぐらい怪しいから」
「ええと、怪しいというのは……なるほど」
これは言葉で説明するよりも見てもらったほうが早いでしょう。
路地の奥にいたのは、ごく普通のチンピラや地元住民とは明らかに異なるであろう、全身を黒いローブで覆い隠して揃いの仮面で素顔を隠した数人の集団。ちょっと距離があるので何を話しているのかまでは聞き取れませんが、こんなにも怪しい集団は見たことがありません。仮面で視界が狭まっているせいか堂々と見ている我々に全然気付いていないあたり、どことなくお間抜け感もありますが。
もしワルモノが何らかの悪事を企んでいるとすれば、なるべく怪しまれないような恰好を心がけるでしょうし、あそこまで堂々と怪しさアピールをしているということは逆に後ろめたいところのない善良な方々なのではないか。人目につかない場所で衣装を着てお芝居か何かの練習でもしているのではないか……なんて想像もできますが、印象としては明らかにアウト寄り。
「怪しいねぇ」
「怪しいですねぇ」
「怪しいな」
「あらあら、皆様。見た目だけで人の中身を決めつけてはいけませんわよ?」
クーちゃんだけは擁護に回りましたが、ここは多数決で推定有罪ということに。
この世界に推定無罪の原則や弁護士を呼ぶ権利などというものはないのです。
とはいえ、流石にいきなり殴ったりビームを撃つわけにもいきませんが。
はてさて、我々はいったいどう出たものでしょうか?
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