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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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46.平和を守るガール


 そして翌朝。

 昨夜は賓客待遇でお城に泊めてもらったのですが、実に快適な一夜でありました。


 ベッドや枕はズブズブと沈み込むほど柔らかく、なおかつ適度な弾力が。

 寝る前に駄目元で客室付きの使用人の方に頼んでみたら、昨日のボール遊びで多少なりとも汗が染みていたであろうワンピースの洗濯は朝までに済んでいましたし、これまた駄目元で聞いてみたら寝る直前の遅い時間にケーキやサンドイッチのような夜食まで出てきました。


 一度磨いた歯を磨き直す手間はありましたが、そのくらい何ということもありません。全部ペロリと平らげた上でぐっすり就寝、起きて早々にまたも駄目元で朝風呂などリクエストしたら当然のようにお応えいただき、そして今現在は朝食の時間という状況です。



「王都までに泊まった宿も良かったけど、ここのホテルは快適さが一段も二段も違いましたねぇ。いつでも食事やお風呂のリクエストに応えられるよう準備してる使用人の皆さんは大変でしょうけど」


「ははは、りっちゃんさんのお気に召したようで何よりです。いっそ本当にホテル業でも始めてしまいましょうかね?」


「うーん、本物のお城に泊れる観光ツアーとか企画したら案外人気出るかもですねぇ」



 流石にそれはわたしもマー君も冗談で言っているだけですが。

 けれど、要はそれくらい快適だったということで。



「そういえば、今朝は王様はいらっしゃらないんですね?」


「ええ、侍従が言伝を届けにきたんですけど、どうも今日は一日中ずっと明日の建国祭の準備や打ち合わせにかかり切りになりそうだとかで。お客様にお構いできずに申し訳ないと言っていたようです」


「いえいえ、お構いなく。もしかすると、昨日は結構スケジュール的にご無理をされてたのかもしれませんねぇ」



 そんなわけで朝食は和食ではなく、お城勤めの料理人の方が作ったパン中心のメニューです。まだまだ十数年分の和食への飢えが完全に満たされたとは言い難いものの、まさかそのために王様に朝ご飯を作りに来いとは言えません。


 それに本来のお城らしい食事というのにも興味はありましたし、これはこれで非常に美味。パンは当然のように焼きたてですし、オムレツの火加減も名人の仕事です。

 パンに卵料理にハムやベーコンにスープにと、出てくる品目そのものは一見すると普段修道院で我々が作るものとさして違いはありませんが、素材の質と作った人間の腕前には天地の差があるのでしょう。どれもこれも大変に結構なお味でした。



「……っと、いけないけない! 今食べ過ぎたら後で他の物を食べられなくなっちゃうからね。ちょっと物足りないくらいにしておかないと」



 なにしろ、昨日に引き続いて今日は丸一日が自由時間。

 ボール遊びも悪くはありませんけど、今度こそは先輩方からオススメされた美味しいお店を片っ端から巡る王都食い倒れツアーを敢行するという重大な使命があるのです。いくら美味しいとはいえ、お城ご飯だけでお腹をいっぱいにしてしまっては、その目的が果たせなくなってしまいます。



「そうそう、お城を出る前にクーちゃんとレイさんには変装をしておいてもらわないと。昨日夜食を頼んだ時に使用人さんに聞いてみたら、そういうのが得意な人がメイクとか服のコーディネートを手伝ってくれるって」


「変装ですか? 私はごく普通の修道女ですし、特に必要ないと思うのですが」


「俺もだ。普段の街ではこの顔が王子ということになっているが、王都では俺が影武者をやっているのを見たことがある者はそう多くもないだろう。特に気を遣わずとも……」



 そして本日は昨日と違ってクーちゃんとレイさんも同行することに。

 案の定渋られはしましたが、せっかくの旅先でずっと別行動というのは寂しいものがあるでしょう。単純に人数が多いほうが楽しそうでもありますし。この二人と一緒に行動することで発生し得るトラブルにも、きちんと対策を考えてあります。



「こらこら、二人して何を言ってやがりますか。どうも自覚がないようなのでこの際言っておきますけど、貴方達どっちもお顔が良すぎて表向きの身分や立場どうこうとは関係なくメチャクチャ目立つんですよ」


「そうなんですの?」


「そうなのか?」


「そうなんですっ!」



 遥かに人口が少ない普段の街ですら人だかりができるのが日常茶飯事。

 この美の化身達が王都の往来を並んで歩こうものなら、どんな大騒ぎになるか想像するのすら容易ではないでしょう。噂が噂を呼んで一目拝もうとした人々で大渋滞が発生し、この世界の美男美女に特有の謎の発光現象で目が眩み、あまりの美しさに一時的に正気を喪失し、それが原因で大事故にまで発展する危険性すら否定しきれません。


 使用人の皆さんの中には以前から城に出入りしていたレイさんと面識のある方々も少なからずいたのですが、しばらく見ない間に魔性すら感じさせる色男に成長していた彼に思わず見惚れていたほどです。最初はわたしの冗談だと思っていたらしいお城の皆さんも、実際に二人の顔面を見たら王都の平穏を守るべく迷わず全面的な協力を約束してくれました。


 意図的にこの美しさを損なわせるのは何らかの人道上の罪に問われそうなものですが、ここは心を鬼にしてメイクや変装を施すのが世の為人の為というものなのです。



「というわけで、お城の皆さん。やっちゃってください!」



 我々が朝食を摂っている間に、使用人の皆さんも準備万端整えていた様子。

 これだけ言っても当の二人は未だにピンと来ていないようでしたが、わたしが熱弁を振るった甲斐もあってか、大人しく連行されていったのでありました。



「ふぅ、これで王都の平和は守られたね!」


「ええ、流石はりっちゃんさんです!」



 わたしとマー君は、まあ昨日と同じで問題ないでしょう。

 人知れず平和に貢献した我々は……しかし、まだ気付いていなかったのです。


 さっきのような半ば笑い話みたいなやつとは根本的に違います。

 まさか、割とシリアスかつガチめの危機がこの王都に迫りつつあったとは。


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