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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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37.緊張でバグるガール


 この国の王様とは如何なる御仁か。

 馬車がお城に着くまでの短い時間に聞いた内容を大まかにまとめるとすれば、『天才』という表現が相応しいでしょうか。まだ即位前の幼い頃から大人顔負けの才覚を発揮して、いくつもの画期的な農法の普及や農作物の品種改良に成功。

 食料の生産量が大幅に増加したことで国内の人口や税収が格段に増した功績を認められ、ついには継承権の順位で劣る次男であったにも関わらず、先代の王様や重臣達からの支持を受けて王位を継ぐまでになったとか。


 能力が高いばかりでなく、性格は温厚にして公明正大。

 出自にこだわらず才覚がある者には支援を惜しまず、私財を投じて教育の普及や国民の栄養・衛生状態の改善など手広く行っているのだとか。これまで意識していませんでしたが、きっとわたしも知らず知らずのうちにお世話になっていたのでしょう。


 いやはや、世の中にはすごい人がいるものです。

 実の息子であるマー君も、心からお父さんを尊敬しているのが分かりました。



「ええ、まあ、遠くで見てる分には何も問題ないんですけどね?」



 これが直々の呼び出しとなると、数々の偉人エピソードもかえってプレッシャーの元にしかなりません。件の王様は御年六十歳。だいぶお年を召されてからようやく誕生した子供とあって、マー君のことはかなり可愛がっているようです。


 他のことなら公平公正なクレバーな判断を下せる人物でも、こと身内の問題となると感情的になってしまうケースだってあるでしょう。愛する息子に付いた悪い虫、つまり他ならぬわたしを強大な権力でもってプチっとひと思いに……なんて。



「ははは、大丈夫ですよ。きっと、りっちゃんさんなら父上とすぐ仲良くなれると思いますよ。学者肌ではありますけど、別にお堅いわけではなく面白い人や笑える出来事が大好きな人ですから」


「そ、そうなの?」



 面白いから大丈夫というあたり、マー君がわたしをどう認識しているのか少し引っ掛かりを覚えなくもないですが。そういう方が相手なら、ここはお会いして早々に一発カマしてドッカンドッカン笑わせたるわ……いや、それは流石に迷走が過ぎますか。

 わたしも冗談で人を笑わせるのは好きなほうですけど、いくらなんでもそこまでお笑い道に命を懸ける覚悟はありません。


 ちなみに、我々が現在いるのはお城の奥まった場所にある待合室。

 場内に複数あるという謁見の間の一つ、そのすぐお隣で王様の支度が整うまで待機中という状況です。待合室といってもオフィスビルの一室みたいな狭苦しい部屋ではなく、見るからに高そうなツボや絵画が飾られた広々とした空間ですし、わたしの実家がすっぽり収まるくらいの面積は優にあるでしょう。



「それにしても、マー君さま。愛しのりっちゃんさんだけでなく、私達もご一緒でよろしかったのでしょうか?」


「ええ、りっちゃんさんが大事なのはもちろんですが、クリアさんやレイもボクの大切な友人ですから。さっき城の者に言伝を頼みましたが、父も是非皆さんにお会いして話を聞きたいと」


「あらまあ、光栄ですわ」



 一応の救いは他の皆も一緒での謁見となることでしょうか。

 院長先生だけは友達ではなく保護者枠となりますが、いずれにせよ見知った顔が近くにいるというだけで心強いことに違いはありません。自分がメインのゲストだという事実には震えるほどの緊張がありますが、まあほんの気持ち程度でもマシになるのはありがたい。



「殿下、皆様。ご歓談中に失礼いたします。国王陛下の支度が整いましてございます」


「やあ、ありがとう。それじゃあ、そろそろ行きましょうか?」



 王様というのはさぞかし忙しいのでしょうし、もっとゆっくり時間をかけていただいても全然良かったのですけれど、待合室に通されてから僅か十分足らずで呼び出しがかかりました。早くマー君と会いたいがために、事前にスケジュールを調整していたのかもしれませんね。



「おや、りっちゃんさん? それは何を?」


「あ、うん。緊張をほぐすためのおまじないみたいな感じ?」



 手のひらに『人』と書いて飲みこんだりもしてみましたが、果たして如何ほどの薬効があるものか。緊張のあまり心臓がバクバク鳴って、視界の端が白く染まってきました。貧血を起こして倒れる直前の、体温がスゥーッと下がっていく感じが近いでしょうか。



「まず最初はボクから皆さんを順に紹介しますから。今回の謁見は略式もいいところですし、呼ばれたら軽く頭を下げて一礼して、一言二言くらい挨拶するだけで大丈夫ですよ」


「頭を下げる……頭を下げる……」



 なんだか隣で話しているマー君の声がやけに遠く聞こえるような?

 

 あれ、わたし達いつの間に謁見の間に来てたんでしょう?


 へえ、あの人が王様ですか。

 現在六十歳とのことでしたが、総白髪の優しそうなお爺さんって感じですねぇ。


 マー君が何か喋っていますけど、音は聞こえるのに不思議と意味ある言葉として頭に入ってこない。あまりにも緊張しすぎたせいか、半分気絶しながら自分の身体が勝手に動くのを高い所から見下ろしているような奇妙な感覚がありますねぇ。



「……さん、……っちゃんさん?」


「あ……は、ひゃい!?」



 気付いた時にはもうマー君に小声で呼ばれていました。

 ここからは、たしか、ええと……そうだ、頭を下げるんでしたね。


 はい、それじゃあ元気よくいってみましょう!



「……こ、この度は誠に申し訳ありませんでしたぁぁ!」



 いやまあ、自分でも何かが違うとは思っていたんですよ。

 でも緊張しすぎて回転が極端に鈍った頭とは裏腹に、我が肉体は実にスムーズに土下座を決めてくれやがりました。これまでの経験が活きた形ですね。なんでまた異世界の地で土下座の経験値を着々と積んでいるんですかね、わたしは。


 ともあれ、やっちゃったものを今更ナシにもできないでしょう。


 王様の前での全力土下座。

 突然の奇行に謁見の間の誰も彼もがポカンとしていますが、このフリーズ状態もそう長くは続かないはず。わたしの来世にどうかご期待ください。


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王様の業績…… あっ。
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