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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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34.無知を知るガール


 そして時間が飛んで翌日。

 我々はまたも王都に向かう馬車に揺られておりましたとさ。



「そ、それで、そこからどうなったのですか!? ご家族にお二人の仲を認めていただいてからの流れを詳しくお願いします!」


「いや、別にどうもしないよ? ご飯が終わったらマー君だけ先にお暇して宿屋に引き上げたの、クーちゃんも知ってるでしょ? わたしは慣れてるから別にいいけど、流石にお客さんをチビッ子達と一緒に雑魚寝させるわけにもいかないしさ。ウチにお客様用の客間なんて贅沢なものはないですし」



 本日の議題は昨日の実家での顛末についてです。

 とはいえ、さほど話せることが多いわけでもありません。

 マー君がうちの家族と仲良くなったり、わたしさえオーケーすれば将来的なアレコレを許可するという内諾を得たりなどはしたものの、根本的な問題として現在は王都までの旅路の途中。


 翌日以降のコンディションに響かぬようマー君は早めに一人で引き上げましたし、一人だけ宿屋ではなく実家に泊ったわたしも、昨晩は久しぶりにチビっ子達の遊び相手を務めたり着替えを手伝ったりしているうちに疲れて早々に寝てしまいました。


 やはり女の子のほうが色恋沙汰への興味が強いものなのか、比較的年長の妹達は今のクーちゃんのように彼との関係を根掘り葉掘り聞きたがっていましたが、彼女達にとっては残念ながら次の機会のお楽しみということになりそうです。


 が、次回の帰省まではそう長くかからないでしょう。

 王都での用事が無事に済んだら、今度は修道院までの帰路でまた一泊くらいできるはず。残りの往路と王都での滞在期間、それから復路での日程を計算すると、次に実家に寄れるのは十日後くらいになりそうです。昨日まで四年もご無沙汰していたのに比べたら、それくらいは一瞬みたいなものでしょう。


 とはいえ、たった十日前後で彼女達が望むような新展開が望めるかどうかは……。



「やっぱり、王様がどういうつもりで呼び出したのか分からないことには何ともね。マー君もそのあたりは知らないんだよね?」


「ええ、手紙には特に書いてありませんでしたし。御者席の彼らも何も聞いていないそうです」



 いくら他の人達が応援しようとも、この国の最高権力者に反対されては対抗するのは難しいでしょう。いえ、必ずしも反対されると決まったわけではありませんけど。まあ考えても今すぐ解決しないと分かり切っていることを考えても仕方ありません。



「うーん……これは例えばの話なんだけどね?」



 ここは思考の切り口を変えてみるとしましょうか。

 わたしにしては、ちょっと大胆な踏み込み方でもありますが。



「もしマー君が王子様じゃなかったら……多分わたしはこんなに迷ってないと思うんだよね。例えば普通のお店屋さんの跡取りだったりとか、どこかのお役所や商会で働く勤め人だったり、それこそ普通の士官学校の生徒さん達みたいに本当に騎士さんを目指してたり」



 今更も今更ですがマー君が士官学校に通っているのは、単にウチの修道院近くの街にある学校で様々な学問や一般常識を学ぶのに都合が良いのがそこだったから。別に本心から職業軍人としての騎士を目指しているわけではないのでしょう。

 昨夜、うちの家族に将来の進路を聞かれた時も、卒業までは士官学校にいるつもりだけど将来は騎士とは関係のない家業を継ぐことになるかも……みたいに誤魔化していましたっけ。


 その割に出会った当初から騎士らしく在ることを心がけて日々精進しているのは不思議な感じもしますが、彼が言う『騎士』とは字面は同じでも現実的な職業としてのソレではなく、物語に登場する正義の味方のアイコンとしての騎士が近いのでしょうね。



「えっとね、つまり……もしマー君が王子様じゃなくて普通のお家の子だったら、わたしは多分とっくにオーケーしてたんじゃないかなぁ……と、思わなくもなかったり。その、はい」


「まあっ! マー君様の想いは、ちゃんとりっちゃんさんに届いていたのですね!」


「そうだったんですか!? 嬉しいです!」


「あ、あくまで想像の、仮定の話としてね!? 現状はそれとは違うわけだし」



 ああ、恥ずかしいったらありません。

 でも、そのあたりを誤魔化すのは不誠実に思えてしまい。

 いやまぁ、方向性こそ違えど元々ある程度の好意があった相手から憎からず想われているというのは……まあ、こちらも悪い気分ではないわけですよ。


 最初のうちは驚きが勝って冷静さを欠いていましたけど、この先の人生でこんなにも自分を好きになってくれる人はもう二度と出てこないだろうなぁ、なんて。そんな考えも告白から時間が経つにつれ浮かんできてしまいまして。


 あとは我ながら情けない話ですが、怖かったのもあるのでしょう。

 半ば無自覚に予防線を張っていたとでも申しますか。

 もし、わたしが彼との関係に本気になったとしても、王様をはじめ顔も知らないような国の偉い人達の一存で、そんな一個人の感情は無いも同然のものとされてしまう。自分に恋愛感情があるとハッキリ認めてから、そんな形で理不尽かつ一方的に関係を否定されるのは、さぞやキツいものがあることでしょう。


 それが怖かった。

 だから、傷つきたくなくて本気で向き合わないよう誤魔化していた。

 自己分析をするなら、大方そんなところになるでしょうか。いや、よく分からないのに被害妄想的なイメージだけでお偉いさん方をワルモノ扱いするのはどうかと思わないではないですが。


 でも今回王様からの呼び出しを受けて、そんな結論の先延ばしもできなくなって、今更ながらに先延ばしにしていた問題に向き合う肚が決まった……かどうかは、まだちょっと怪しいですけど。



「あとは、マー君が王族だっていうポイントが、わたしにとっては現状マイナス要素にしか思えないというか。あまりにもワケが分からなさ過ぎて、そうなった自分を想像すらできないというか」



 ここから建設的に考えるとすれば、実際のお城の中の世界がどういうものなのかを正しく知ることから始めるべきでしょうか。なにしろ最低限の判断材料すらないのだから、正しい判断などできようはずもありません。それで出来るのは判断ならぬ妄想くらいのものでしょう。


 そういえば前に王族の生活がどんな風かを誰かに聞こうと思って、そのまま妙案を思いつかずに伸び伸びになっていたんでした。マー君はお城ではほとんど寝たきり生活だったみたいだし、実はかなり良い家のお嬢様らしいクーちゃんもお城の中の暮らしについて詳しくは知らないそうで。



「なるほど……ごめんなさい! そこはボクが責任を持ってフォローすべきでしたね。とはいっても、ボクも一般的な王族の暮らしとは縁遠い身だったもので」


「いやいや、マー君は悪くないから!? むしろ勝手に悪いほうにばっかり想像してたわたしの責任というか……」


「いやいやいや、それでも結婚や交際を申し込んだ側としては、愛しい方に余計な心労をかけてしまった負い目というのもありまして」


「いやいやいやいや……よし、この謝罪合戦は不毛すぎるから、このへんで止めておこうか。それで話は変わるんだけど、誰か王族の暮らしが具体的にどんなものかをフラットな目線から教えてくれる人に心当たりとかないかな?」



 つまり今やるべきはお勉強というわけです。

 分類としては社会科でいいのかな?

 わたしとしては馬車が王都に着いてから、誰かしらそのあたりの情報に詳しい人をアドバイザーとして紹介してもらえたらいいなと思っていたのですけれど。



「そういうことなら、適任がいますよ。レイ、頼めるかい?」


「ああ、構わない」



 マー君が教師役として自信満々に推薦してきたのは、どんどんオモシロ人間としての印象ばかりが強くなっている影武者さん。優秀な人物であるのは間違いないみたいですし、どうせ馬車に乗っている間はお喋りくらいしかやることがないので時間を有効に使えるのは助かりますが……ただの王子と影武者の関係にしては妙に親密に見えますし、わたしやマー君と同い年とは思えないほどの落ち着きぶり。今更ながら、レイさんってどういう人なんでしょう?


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