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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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31.旅ガール


 王族用の馬車の乗り心地は素晴らしいものでした。

 どんな仕組みで衝撃を和らげているのかは分かりませんが、未舗装の部分も多い街道を走っていても振動はほとんどなく、座席の座り心地も実に快適。簡単な仕切りで区切られた御者席に控えている執事さんに一声かければ、軽食や飲み物まで振る舞ってくれるそうです。

 なんというサービスの充実ぶり。前世でも乗ったことはありませんでしたが、噂に聞いた飛行機のファーストクラスにも引けを取らない快適さなのではないでしょうか。


 困ったことに、今はまったくそれどころではないのですけれど。



「どうしよう、どうしよう!? 王様から名指しで呼び出しって絶対マズいやつでしょ! 会ったその場で死刑にされたりしないよねぇ!?」



 わたしの狼狽ぶりも今回ばかりは仕方がないでしょう。

 なにしろ、この国の最高権力者からの直々のご指名です。

 良からぬことを企んだ小娘が病弱な王子を誑かしたとかの理由で、知らぬ間に怒りを買っていたなんて可能性すら否定しきれません。向こうがどれだけヒートアップしているかにもよりますが、いきなり土下座して誠心誠意謝ったら口頭でお叱りを受けるくらいで勘弁してはもらえないものでしょうか。



「ははは、大丈夫ですよ。父上はそんなに怒りっぽいタイプではありませんから」


「むぅ、元はと言えば誰のせいだと……」



 わたしが目の前でこんなに困っているというのに、他の皆はどこ吹く風とばかりにリラックスして、優雅に馬車旅を楽しんでいます。


 院長先生は執事さんに用意させたチーズを肴に持ち込んだお酒を飲んでいますし、クーちゃんは影武者のレイさんと談笑中。いえ、レイさんは普段と同じ氷のような無表情なのでクーちゃんが一人でニコニコ笑っているだけですが、彼も口下手なりにポツリポツリと返答を返しているので嫌がってはいないご様子。



「それで彼女はいつもマー君様とお喋りしたことを嬉しそうに話すのですよ。うふふ、私としてはあと一押しでりっちゃんさんもご自分の気持ちに素直になってくれると思うのですが」


「そうか、マークも最近はそこの彼女のことばかり喋る」



 内容がすぐ隣にいる自分達の友人の恋バナでなければなお良かったんですけどね!

 話題に出すなとまでは言いませんけど、せめて我々に聞こえないところでやって欲しいです。いえ、マー君は全然気にしないどころか逆に嬉しそうにしていますが。またも、わたし一人だけがダメージを受けています。


 それにしても、この人間離れした美形二人が並んでいると、謎の後光で空間の光量が凄まじいことになりますね。屋根付きの馬車の中だというのに、真っ昼間の外よりも眩しいです。まあ、この世界における美男美女に特有の怪奇現象にも最近はだんだん慣れてきましたけどね。




 ◆◆◆




 そして出発から二日後。

 初っ端の不意打ちで順調な滑り出しとはいきませんでしたが、人間というのは意外とどんな状況にも慣れてくるもののようです。単にわたし個人の神経が人並み外れて図太いだけかもしれませんが、まだ王都に着いてもないのに王様の呼び出しに怯えるのにも飽きてきたというのが本音でしょうか。



「昨日の宿は凄かったね。わたし、豚の丸焼きなんて初めて食べたよ!」



 毎日の宿の支払いはマー君というか王室持ち。

 元々、修道院のお金でタダの旅行をするつもりではありましたが、いくらなんでもここまでの豪遊旅行は望めなかったことでしょう。事前に王家の名前で予約がしてあったと思しき道中の街々では、如何にもお高そうな宿屋の一番良い部屋が各人に一部屋ずつ割り当てられ、ご飯の時間には食べ切れないほどのご馳走が次から次へと出てきました。


 

「それに、まさか温泉があるとは思わなかったよ!」


「ふふ、なんだかお肌が普段よりスベスベしているようですわね」



 上等な食事と寝床に加えて、昨日の宿では前世以来となる温泉に入ることもできました。この国にもある所にはあったんですねぇ、温泉文化。距離的に修道院まで水道管を引くとかは難しそうですが、この文化はもっと広まって欲しいものです。


 わたしの髪やお肌も心なしツヤが増した感がありますし、元より美人のクーちゃんなど毎度の後光に加えて天使の集団が周囲でファンファーレっぽい音楽を奏でる追加の幻覚と幻聴まで大増量キャンペーン中。道行く人々がその神秘的な光景を前に何を思ったのか、道端に跪いて彼女を拝みつつ感涙していたのも無理のないことでしょう。



「馬車が良いおかげで、ずいぶん順調だからね。この調子なら予定より早めに王都入りして、マー君のお宅訪問……は、まだ忘れておくとして。そっちの用事が無事に済んだら、のんびり観光できそうじゃない?」



 最初はイメージだけで怖がっていましたが、王様と直接の面識があるマー君とレイさんと院長先生の三人が揃って大丈夫だと太鼓判を押してくれましたし、最悪でも命まで取られることはないだろうと思えるくらいにはなりました。


 そもそもご子息のマー君からして王子なのに傲慢さや理不尽な振る舞いとは無縁の善良なお人柄をしていますし、その親御さんが極端に苛烈な性格をしている見込みは薄いでしょう。まあ世の中には正反対の性格をした親子も多々いるにせよ、先の三人が揃って嘘を吐く理由などないはずです。


 やや強引な部分もあるにせよ、そんな風に考えられるようになったことで気持ちの余裕が生まれた面はあるのでしょう。おかげで、こうして旅を楽しむ余裕も出てきて……あれ?



「はて、何か忘れてるような?」



 王様からの呼び出しのインパクトが強すぎたせいか、他の記憶が脳ミソの隅に追いやられてしまったのでしょうか。元々、何かしら他にやるべきことがあったような気がするのですが、どうにも思い出せません。


 そんなわたしの念が通じたのかは分かりませんが。



「それにしても、ボクもちょっとドキドキしてきましたよ」


「はて、ドキドキというといつもわたしに言ってるヤツですか? そういうのじゃない体調不良的なドキドキなら、近場の街か村に馬車を停めてもらってお医者様に診てもらったほうがいいかもですけど」


「いえ、そういう悪い意味でのドキドキじゃないので大丈夫です!」



 街道を進む馬車の車内で、マー君が急によく分からないことを言い始めました。いえ、これに関しては分からないも何も、うっかり失念していたわたしが迂闊に過ぎただけなのでしょうが。



「ほら、ちょうど今日泊まる予定の町に、りっちゃんさんのご実家があると伺っていましたから。好きな人のご家族に挨拶するというのは、ずいぶんと緊張するものなんですねぇ」


「……あっ!?」



 そういえば旅のついでに帰省する予定なんでした。

 ええ、もちろん数年ぶりに家族に会えるの自体は嬉しいんですけれど。それと、お友達を紹介するだけならセーフだとしても……王子様の正体とかプロポーズの件とかどうしましょう?


そろそろ作品全体の折り返しは過ぎたくらいですかね、多分。

追加で何か思いついたら更に伸びるかもしれませんが。

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