21.吃驚仰天ガール
わたしが暮らす修道院には応接室なるモノがあったりします。
まあ滅多に使われることはないのですが、普段から持ち回りでお掃除はしているので清潔ですし、結構良いソファが置いてあるので何かしらの当番をサボってお昼寝するのにちょうど良い穴場だったりする……のは別にどうでもいいとして。
現在、もう夜も遅いというのに応接室には二人のお客様がやってきておりました。
そのうち一人は応対に当たった先輩の黄色い声が聞こえていたので例の王子様だと分かっていましたが、もう一人までわたしの顔見知りだとは思ってもいませんでした。
「おや、誰かと思えばマー君ではないですか」
「こんばんは、りっちゃんさん! 夜分遅くに失礼します!」
つい数時間前に二回も死にかけたとは思えない元気の良いお返事です。
まあ、そのうち一回は他でもないわたしが殺しかけてしまったのですが。
「ははぁ、さては王子様のお供とかで連れてこられたんですかね? 王子様も、さっきはどうもありがとうございました。お陰様でこの通りピンピンしておりますですハイ」
その後に色々あったせいでインパクトが薄れていましたが、目の前の王子様はわたしの命を救ってくれた恩人なわけでして。目からビームを乱射する絵面の面白さを思い出して吹き出さぬようにだけ気を付けながら、改めてお礼を述べました。
「ありがとう」とは良い言葉です。
いくら使ってもお値段無料なのが特に良い。
恐らくお金には困っていないであろう王族ならば、助けたことを恩に着せて金銭を要求するようなみみっちい真似をすることもないでしょう。
それはそれで、彼らの来訪理由がさっぱり分からず不気味ではあるのですが。
「ところで、院長先生? わたしは何でここまで担いで来られたので?」
ついでに言えば、わたしは今現在も院長先生の肩の上に荷物として担がれている状態です。その上、服装は寝間着のまま。色気のない木綿のシャツと短パンという格好ですし、別に殿方に見られて恥ずかしいというほどではありませんが、なにしろ相手が相手ですし非礼に当たらないかは気にかかります。
「だって、アンタ。こうでもしないと逃げるだろう? というか、担がれたまま普通に談笑を始めるんじゃあないよ。ツラの皮の分厚さだけは一丁前だね、っと」
「いえいえ、それほどでも。じゃあ、わたしもソファに失礼しますね。ああ、先輩。お客様にお茶をお出しするなら、ついでにわたしの分も頂けたりしません? いつも飲んでる毒みたいなのじゃなくて、来客用の良い茶葉ありましたよね」
「本当に図々しいにも程があるね!?」
いつもはもう少し慎ましく暮らしているつもりなのですが、なにしろ今日は心も身体も疲れすぎたせいか、そうした外面を取り繕うのすら面倒になっているようです。
「それで、ええと、ここに連れて来られた時点でなんとなく察してるんですけど、王子様がわざわざいらっしゃった理由はわたしに何か用があるから、とか?」
そうでもなければ、わたしが担いで連行される理由など思いつきません。
肝心の来訪理由に関しては、昼間にお会いした時に何かしら失礼な真似でもやらかしたとか、目からビーム撃つのを見て思わず笑っちゃったのを見られてて怒りを覚えたとか……意外とありますね、心当たり。
それ以外に平和的な方向での可能性を無理矢理ひねり出すなら、高貴な身分のイケメンが庶民の娘に一目惚れして求婚しにきた……いや、ないわ。あり得ないにも程があるわ。我が友人たる神話的美少女クーちゃんならともかく、美女など見慣れているであろう王族がわたし如きの容姿を気に掛けるとは思えません。
「いや、私には貴女への用はない」
「で、ですよねぇ……へへへ」
実際、王子様から用無しだと言われても落胆よりも安堵が勝ったくらいです。
はて?
でも、それなら彼らはなんで訪ねてきたのでしょう。
続く王子の言葉で、わたしの混乱はますます深まることとなりました。
「私には用はないが、王子にはある」
「はい? それはどういう……」
銀髪長身の目からビームが出る美男子は、いよいよ意味の分からないことを言い出しました。王族特有の奥ゆかしい言い回しとかでしょうかね?
「すみません、りっちゃんさん。ここからはボクが変わりますね。彼は、その、なんというかあまり喋りが上手いほうではないので……」
「いやまあ、こっちもマー君相手のほうが話しやすくて助かりますけど、王子様の目の前でそんな風に言って大丈夫なんですか?」
「ええ、それは問題ないかと」
そういえば、マー君同伴で来てる理由も分からないんですよね。
てっきり王子様の護衛か荷物持ちでもさせられているのかと思いましたけど、さっきから見ている限りはそういう雰囲気でもありません。
「ごめんなさい!」
更には、マー君がいきなり頭を下げて謝ってきたではありませんか。こちらが謝る心当たりならありますが、逆に頭を下げられる理由など思いつきません。
「えっと、それは何についての『ごめん』なんです? ちょっと心当たりがないんですけど……」
「しいて言えば、りっちゃんさんを騙していたことについての謝罪ですね。本当に申し訳ありません」
騙す?
マー君が、わたしを?
ここまで言われても、目の前の純朴なワンコ少年に何をどう謀られていたのかすら分かりません。こんなにも真っすぐな人間が意図して誰かを騙すなど、よっぽどの事情がなければあり得ないでしょう。
まあ、そのよっぽどの事情というヤツがあったのですが。
「ボクのマークという名前は身分を偽るための偽名というか、元々は身内の間で呼ばれる愛称みたいなものだったんですけれど。本当の名前はマクスウェルといいます」
ははぁ、マー君の本名はマクスウェル君と仰ると?
なんとなく、どこかで聞いたようなお名前ですねぇ。
「こちらの銀髪の彼は本名をレイといって、いわゆる影武者というものですね。ボクの代わりに王子として生活してもらっています。影武者なのに全然似てなかったり、そのあたりも色々と細かい事情があるんですけど」
ということは、つまり?
「つまり、普段りっちゃんさんと仲良くしていただいていたボクが、本物の王子だったんですよ。これまで騙していて申し訳ありませんでした」
……いやいやいや、待って待って待って!?
この時点ですでに泡を吹いて倒れそうなほど驚いていたのですが、マー君の正体はほんの話の導入にすぎませんでした。まさか、ここから更に第二第三の驚きが襲いかかってこようとは。
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