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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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02.もうすぐ有毒ガール


 聖職者見習いとしての生活は思った以上に大変でした。

 いくら神に仕える方々とはいえ、役立たずの無駄飯喰らいを養うほどの寛容さまでは持ち合わせていないということなのでしょう。



「ヘイ! さっさと起きな小娘共!」



 一番下っ端の新入りであるわたしの朝は、日が昇り始めたかどうかという早朝に恐ろしい院長先生に叩き起こされるところから始まります。具体的に何がどう恐ろしいのかに関しては、またいずれ。

 そして朝ご飯前から早速お仕事に入るわけなのですが、仕事内容はその時々の当番次第。

 やたらと広い院内のお掃除や、修道院の敷地内で育てている野菜や家畜のお世話。今時分の寒い時期だと、カマドの火に当たって作業の合間に暖を取れる食事当番あたりだと嬉しいのですけれど。



「おはよう、クーちゃん。この寒いのに水汲み当番なんてツイてないねぇ」


「おはようございます、りっちゃんさん。今日も張り切って参りましょう」



 逆に、最悪なのが修道院の裏手にある泉と建物とを何往復もしないといけない水汲み当番。ただでさえ寒いのが水に濡れて余計に冷えますし、水で満たしたバケツは重いわ、持ち手の部分が手のひらに食い込んで痛いわで最悪です。


 まあ、そんな風に不満を抱くこと自体が未熟さの顕れなのでしょう。

 現にわたしと同日にこの修道院にやってきた同期の桜、クーちゃんことクリア嬢は何がそんなに楽しいのか、手を真っ赤にしながらもニコニコ微笑んで不満の一つも零していません。

 どこそこの貴族だか何だかの良い家のお嬢様であるらしいにも関わらず、わざわざ好きこのんで修道院なんぞに入りたがるだけのことはあります。タダ飯目当てのわたしと違って、ちゃんと敬虔な信仰心があれば多少の肉体的苦痛は気にならなくなるものなのでしょうか。



「ふぅ、朝から運動したからご飯が美味しいわ」


「ふふ、いつもながら気持ちの良い食べっぷりですねぇ」



 これに関しては嬉しい誤算と言うべきか。

 修道院の食事に関しては最初から大して期待していなかったのですけれど、その予想は良い方向に裏切られる結果となりました。もうちょっと具体的には、食事の質も量もわたしの今生の実家よりも遥かに良いものが出てきたのです。


 パン籠に山盛りの焼きたてパンは食べ放題。

 自分達で育てている野菜がゴロゴロ入った大盛りシチュー。

 バターにチーズ、少量ながらジャムや干し果物のような甘味まで。


 食事の内容についてはパンが麦粥になったり、ハムやベーコンのような肉類があったりなかったり。日によって多少の差異はあるものの、この程度のブレならばむしろバリエーション幅の広がりとして大歓迎。わたしもまだ詳しくは知らないのですが、どうやらこの修道院が属する宗派には食事面の禁忌というものはないらしく、大っぴらにお肉を食べられるのも嬉しい計算違いでした。


 とはいえ、我々の模範となるべき院長先生が毎晩の晩酌を習慣にしているのは、本当に大丈夫なのかと疑問に思わなくもないですが。醸造については専門の知識や技術がいるので新入りのわたしはまだ関わっていませんが、当院では育てた麦やら裏山で収穫した山ブドウやらでお酒も造っているのです。


 一般的に清貧の気風が強い修道院のイメージに反して、ここのお金周りが妙に良いのはそういった生産物を近くの街に卸しているおかげもあるのでしょう。だとしても、毎食のご馳走を見るとそれで本当にカバーしきれるのかは大いに疑問が残るのですけれど。



「はい、りっちゃん。食後のお茶を忘れちゃダメだかんね」


「うぅ、いただきます……」



 予想外に大満足の食事の中で、唯一の例外として苦手としているのが毎食出てくる謎の香草茶。前世で飲んだドクダミ茶の苦味と臭いを百倍くらいに濃縮したら、多分こんな感じになるのではないでしょうか。

 どういうワケかこの修道院ではコレを飲むのが義務付けられていて、食事が九割方終わりかけたタイミングでさりげなくフェードアウトしようとしても、先輩方の誰かに必ず見つかって飲み干すまでは絶対に解放してもらえません。

 健康に良いらしいと聞いていますし、実際連日の過酷な労働でも体調を崩す気配はないので恐らく効果は本物なのでしょう。だからといって、可能ならご遠慮願いたいのは変わりませんが。



 そうして朝食を終えたら、あとは如何にもな修行の時間。

 聖句を暗唱できるようになるまで何度も繰り返して唱え続け、聖歌の合唱を練習したり、眠気をこらえて瞑想したり。その後はまた畑や家畜の世話をして……というのが、わたしの一日の流れになるでしょうか。


 ここに来てキャリアの長い先輩方は、院長先生直々の指導下で何やら高度な修行に励んでいるとも聞きますが、そのあたりを訪ねても苦笑しながらはぐらかされてしまいます。まあ信仰心など微塵も芽生えず『フリ』だけが日々上達している身としては、好んで厳しい修行をしたいわけではありません。

 できることなら、その高度な修行とやらについては知らぬまま過ごして、ほどほどのタイミングで還俗して良さげなお相手と結婚してシャバに戻る……みたいなルートが理想的でしょうか。


 事実、わたしがここに入る枠が空いたのも、入れ替わりで同様の勝ち逃げをキメた先輩がいたからだったと聞きました。基本的に閉ざされた空間である修道院に出会いの機会というのは少ないのですが、それでも最寄りの街に産物を売りに行ったり逆に必要な買い物をしたりなど、外部との接点がまるで皆無というわけでもありません。


 そもそも院長先生からして、週の半分は酒場に通って飲み仲間とのカード賭博に精を出していると聞きますし。まあ、あの人については極めて特異的な例外としても、我々のような修道女というのは世間的なイメージも基本的に良好ですし、出会いの機会さえあれば交際や結婚といった方向に発展する話もそれなりにないワケじゃあないそうなのです。



「夢は大きく貴族の若奥様……は、人付き合いとか大変そうだね。もうちょっと気楽に過ごせて経済的にも余裕ありそうな、そこそこの規模の商会の跡取りあたりが狙い目かな? 如何にもなイケメンだとこっちが気後れしそうだし、ほどほどに清潔感があって純朴なタイプでお願いします」


「ふふふ、お願いされても残念ながらご紹介できそうな心当たりはいないのですけど。りっちゃんさんがお望みなら、微力ながら応援させていただきますわね」



 真っ当に信仰の道を極めるべく修道院入りした人にこんな野望を聞かせたら叱られてしまいそうですが、クーちゃんは怒るどころかこちらの妄言に対しても優しく対応してくれます。


 うんうん、これならわたし一人くらい足抜けしても修道院の未来は安泰ですね。

 できれば実家のご縁で良さげなお相手を紹介してくれたら満点でしたが、まあわたしと同じく若干十二歳の少女にそんな頼みをするほうがおかしいというものでしょう。文句などあろうはずもございません。




 ◆◆◆




 さて、そんな生活にも少しは慣れた頃。

 わたしがここへ来て半年ほど経ったあたりだったでしょうか。



「ヘイ、小娘共! 今日からアンタらも特別な修行をさせてやろう。どうだい、嬉しいだろう?」



 身長は恐らく190センチ以上、年季の入った修道服が内側からの圧力で張り裂けそうな筋肉を纏ったマッチョな老女、我らが模範とすべき院長先生がそんなありがたいお話を振ってきました。いつもながら修道院の院長というより山賊の女親分とでも言われたほうが納得できそうな大迫力です。


 ええ、どう考えても拒否権とかなさそうですね。


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特別な修行、二の腕にナイフ付けて水汲み。
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