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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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19.毒手ガール


 一応は真面目に修行していたおかげで、我が両手には謎の世界樹成分がたっぷりと染み込んでいたようです。それを打撃によって打ち込まれたマー君の肉体には、驚くべき変化が起こりつつありました。



「うわ、すご」



 骨まで見えそうなほど深々と切り裂かれていた傷は、傷口周りの皮膚や筋肉が不自然に蠢いてボコボコと盛り上がり、あっという間に健康体に。

 傷口が閉じ切る前にチラっと見えただけですが、筋肉はまだしも血管や神経が自律的に動いて繋がるのは一体どういう仕組みなんでしょうねアレ。流石に破れた服までは治りませんが、着替えればどこをどう怪我したのかさえ分からないでしょう。



「いやぁ大したもんですね。治る過程はちょっとグロかったけど……」



 このわたしにあんな真似ができようとは、未だに現実感がありません。

 そういえばお肉がボコボコ盛り上がる様は、なんだかトースターで切り餅を焼いた時にぷくっと膨れるのを思い出しましたねぇ。前世で食べたきりご無沙汰ですが、妙な連想をしたせいか久しぶりにお餅の口になってしまいました。

 この街の市場でもお米っぽい穀物なら見かけた覚えがありますし、もし無事に平和な日々が戻ってきたら、炊いたり搗いたりしてそれっぽい代用品くらい出来ないものか試してみようか……なんて、何かと思考が横道に逸れがちなわたしにしても一際脱線の度合いが大きかったのは、非日常の緊張感で疲れていたせいでしょうか。



「こちらの皆さんのお口に合うかは分かりませんけど、もし上手くできたらマー君にもお裾分け、を……おおおおっとぉ!?」



 なんということでしょう。

 危険域を脱したと思って安心していたら、ちょっと目を離した隙にマー君の全身に血管がビキビキと浮かび上がっているではありませんか。



「ちょっ、なんですかコレ!? マー君!」



 未だにマー君の意識が戻っていなくて良かったのかどうなのか。

 元々は女の子のように細い彼の手足の筋肉が不自然に盛り上がり、この短時間でキレキレの筋肉質な肉体に。白目を剥いて泡を吹きながら、全身のあちこちがビクンビクンと不自然に痙攣しています。



「あばばばばば」


「し、しっかりして!?」



 この状況の原因は明らかでしょう。

 未熟な使い手が半端な処置をしたせいに違いありません。

 世界樹由来の成分が怪我を癒しただけでなく、勢い余ってマー君の害になっているようです。たしか院長先生の説明によると、過剰に叩き込まれた生命エネルギーの暴走だとか言ってましたっけ。やっぱり毒手ですわ、コレ。


 このままだと、せっかく助かった彼は全身の内臓が破裂して穴という穴から血を噴いて死亡。わたしは命の恩人を殺してしまった上に、院長先生から制裁を受けて再起不能にされてしまいます。



「ヤバいヤバい、このままだと院長先生に殺される!?」



 いえ、多分殺されはしないでしょうが、死んだほうがマシな目に遭わされる可能性は大いにあるでしょう。そんな生き地獄を回避するためにも、マー君には絶対に助かってもらわねばなりません。その具体的な方法が分かっていたわけではないのですが……、



「有り余った生命エネルギーが行き場をなくして暴れてるってことは……そ、そうだ!」



 自分でも酷い発想だとは思ったのですが、迷っている暇はありませんでした。

 生命エネルギーが余っているというのなら、それが正しく向かう逃げ道を作ってやればいいのではないか。つまりは致命傷から回復したばかりの人間に追加でダメージを負わせれば、その新しい怪我を治すために余分なエネルギーが消費されて今の暴走状態が収まるのではないか。



「ぐはっ、ぐ、がっ」


「マー君、ごめん! 本当にごめん!」



 そんな仮説の信憑性を検討することもしないまま、わたしは彼の鳩尾(みぞおち)のあたりに容赦のない肘鉄を連続で打ち下ろしました。なにしろ両手で殴って毒のおかわりを体内に入れるわけにはいかないので、肘でも足でも全身何でも使わないといけません。

 意識がなくとも肉体の反射で肺から空気が漏れるのか、いちいちマー君の悲痛な声が聞こえてくるのが罪悪感を誘いましたが、どうやら心を鬼にした甲斐はあったようです。



「おっ、ちょっと血管のビキビキが収まってきたような? よし、この調子で……っ」



 追加でお尻のあたりを思い切り蹴飛ばし、カカトで肩を踏みつけ、更にはこちらの全体重が乗ったヒップドロップで肋骨を圧し潰し、と。傍目からは全身血まみれの修道女が、少年を虐待しているようにしか見えないでしょう。魔物に見つからないための方策でしたが、あらかじめ屋内に移動しておいて正解でした。


 本当に申し訳ない気持ちはあったのですが、どうやら仮説の方向性は合っていた様子。青アザが出来るような打撃を受けても、体内に残留した生命エネルギーが即座に元通りに癒してくれます。それに伴い不自然な筋肉や血管の隆起も収まってきて、次第に彼の呼吸も穏やかなものになっていきました。



「こ、これなら大丈夫かな?」



 血を失いすぎて青ざめたり、逆に血の気が多くなりすぎて赤くなっていた彼のお顔も、今では普段通りの健康的な血色に戻っています。


 ……いや、よく見たらちょっぴり赤寄りのような?


 まあ見た感じは軽い風邪を引いたくらいのモノでしょうし、更なる加虐の必要はなさそうですが。今更も今更ですが、仲の良いお友達でなおかつ命の恩人をボコボコに殴ったり蹴ったりするのは二度と御免です。




「よがっだ……よがっだよぅ……っ」



 ああ、安心したら思わず涙が……。

 マー君の手を握ったままダラダラとみっともないことです。

 血と涙と鼻水で、今のわたしはさぞ酷い顔になっていることでしょう。


 ともあれ、これで院長先生に再起不能にされずに済むはずです。

 魔物とわたしに続けて二度も殺されかけたマー君ですが、恐らくは自分の身に何が起きたかを正確に把握してはいないでしょう。まったくの無傷であることを不思議に思うかもしれませんが、そこは怪我をする夢か幻覚でも見たのだろうとでも説明して強引に押し切るほかありません。


 それから数分ほど経ったらマー君も意識を取り戻し、更にその直後にやって来た騎士団の捜索部隊に保護されて、わたし達は無事に安全圏まで逃げ延びることができたのです。



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