17.約束を守られたガール
とりあえず分かったことがありました。
石畳で舗装された地面で全力のでんぐり返しをすると、背中や腰に予想以上のダメージが入ってとても痛い。またひとつお利口さんになりましたね。願わくば、今後の人生でその学びが活かされる機会が二度と来ないことを祈るばかりです。
まあ、それは冗談としましても。
「やあやあ、こんな所で奇遇ですねぇ」
「ええ、ボクも驚きました!」
どこかの商店の裏口に積まれた木箱の陰に二人してしゃがみ込み、おっかなびっくり周囲をキョロキョロ見回している様はお世辞にも格好が良いものではないでしょう。
けれど、現在進行形でピンチが継続中の状況で、信頼できる知り合いと合流できたのは悪い材料ではありません。目からビームが出るタイプの王子様と違って戦力的に頼りになるかというと心許ない面もありますが、それでも少なからず気が楽になったのを感じます。
「そういえば、マー君はお一人ですか? お仲間の皆さんはどちらに?」
「はい、ついさっきまで一緒だったんですけど、魔物に襲われてバラバラに逃げてるうちに逸れました!」
前言撤回。
そんな事情を朗らかに語るんじゃあないですよ。
一旦楽になった気が再び引き締まるのを感じます。
マー君の性格上、どこぞのフリーダムなプリンス様と違って自由にフラフラ単独行動をするのは妙だと思っていましたが、ソロ活動の真相はそんなところだったご様子で。まあ無理に実力に見合わない行動をして大怪我をするよりはマシですが。
普段のライフワークである助っ人活動で腕力がわたしと大差ないのは知っていましたが、彼の武芸の腕前は半人前の学生基準で見ても特筆すべきところはないのでしょう。筋力は控えめながらも、磨き抜かれた技量だけで敵を圧倒するような達人ムーブは期待しないほうが良さそうです。一応は剣こそ腰に差しているものの、マー君の戦闘能力は無いも同然という前提で考えるべきでしょう。
「じゃ、戦うのは極力避ける方針で。ところで、どこか安全な場所の心当たりとかないです? なんとなく人の声が聞こえる方向を目指して進んできたんですけど」
「はい、それならあちらの通りの先に正規の騎士団の皆さんが陣を築いています。ついさっきまではボク達の部隊も逃げ遅れた住民の方々を捜索しつつ、そこまでお連れするのを何度か繰り返していたんですけど……」
途中までは順調に任務をこなしていたものの現状に関しては先述の通り、と。
もっとも聞いた限りでは、護衛対象たる一般市民を見捨てて自分達だけ逃げたというわけではないようです。新たな捜索に出た矢先に物陰からの奇襲を受けたということですが、少なくともマー君が仲間と別れた時点ではお仲間の誰かがやられた様子もなし。それぞれ別方向に逃げたことで、襲った側の魔物も誰を追いかけるべきか咄嗟に決めきれなかったのでしょうか。
「その安全地帯近くまで行けば逸れたお仲間とも合流できるかもしれませんし、わたし的にはマー君さえ大丈夫そうならエスコートをお願いしたいかなぁ、なんて」
戦闘面はさておいて、住民の捜索と誘導でさっきから近辺を往復していたのであれば、周辺の建物の位置関係や使えそうな抜け道などの道案内で頼りにさせてもらうことはできるでしょう。少なくとも、わたし一人が勘に任せて突き進むよりは安全なはず。
「はい、もちろんです。りっちゃんさんはボクが守ります! この前にも約束しましたから!」
ああ、そういえばそんなこともありましたっけ。
この数時間の間に何度も死にかけたせいか、ずいぶんと昔のように感じます。あの時はまさか、この小さな騎士様に本当に守られるようなことがあろうとは思ってもいませんでした。道案内を頼むつもりとはいえ、今だってその考えに大差はありません。
その認識を改めたのは、この直後。
「あ」
「はい、どうしま……」
大きく目を見開いたマー君が、立ち上がり様にわたしの肩のあたりを強く突き飛ばしました。二人して向かい合う形でしゃがんでいたので、当然ながら地面に背を付けて寝転がる格好になったのですが……、
「え、マー……?」
顔と身体に生温かい血液がビチャビチャと降り注ぎます。血で滲む視界の中で辛うじて見えたのは、わたしを庇って身代わりになる形で魔物に上半身を大きく切り裂かれた、小さくも勇敢な騎士様の姿でした。
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