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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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14.絶体絶命ガール


 多くの動物がなぜ群れを作るのか。

 色々と理由はありますが、特に分かりやすいのが危険な外敵に襲われるリスクを低減するためでしょうか。一対一ならとても敵わないような肉食動物であっても、数の暴力を以てすれば対抗できる可能性はありますし、そもそも襲う側が割に合わないと判断してくれる効果も見込めます。


 社会性動物の一種である人間が国や街といった集まりを作るのも、そうした動物的本能が多少なりとも影響を与えているのかもしれません。一人一人がバラバラに好き勝手動いていたら、まず基本的な衣食住を賄うのだって大変です。

 共同体の内部において課される数々の義務であるとか、煩わしい人付き合いなどデメリットがないわけではないにせよ、やはり人間というのは本質的に群れで生きるべきなのだなぁ……なんて、今まさに魔物の目の前に一人でノコノコ現れたわたしは思う次第でございます。



「ちょ、ちょっ、待って待って!?」



 眼前の魔物は人間大の巨大昆虫。

 やたらと甲殻のあちこちに鋭いトゲが生えている点からするに、恐らくはマー君から話に聞いたナントカトゲトゲでしょう。背中の翅で空を飛ぶとは聞いていませんでしたし、そもそも何で遠く離れた郊外で目撃されたのが街中にまで出張って来たのかはさっぱり分かりませんけれど。



「あ、無理だコレ」



 一応は日頃から毒手モドキの謎拳法をやっている身。

 怪しげな世界樹汁が骨身の髄まで染み込んでいる両手で強く殴れば、それで魔物は全身の穴と言う穴から体液を撒き散らして爆散してしまうのかもしれませんが……そもそも攻撃を当てられる気がしません。


 眼前のナントカトゲトゲは、全身に生えるトゲ以外に贅沢にもカマキリの如き鋭いカマを両腕に備えている様子。間抜けにも自分から死地に飛び込んできた(わたし)が来る前までは、周囲の建物を壊そうと考えていたのか辺りの石壁には鋭い刃物で切り込んだような跡が深々と。あんな凶器で斬りかかられたら人間の肉体なんぞ、あっさり真っ二つになってしまいます。


 これが真っ当な武芸者であれば、勇敢にも自分から間合いに飛び込んで死地にて勝機を見出すのかもしれませんが、わたしにそんな真似はできそうにありません。無理に殴りかかろうにも腰が引けて中途半端な踏み込みとなり、その隙にガブリと噛みつかれるのがオチでしょう。



「に、逃げないと」



 かの孫子さんも三十六計逃げるに如かずと言っておられます。

 とはいえ、それもどこかに逃げ道があってこそのお話でしょう。


 先程から役に立ちそうもない現実逃避を頭の中で続けている間にも、わたしは魔物から視線を切らぬよう注意しつつゆっくり後退りをしていたのですけれど、ちょっと前から背中に硬い壁の感触が。つまりは行き止まりに突き当たったわけでして、これ以上の後退は物理的にできそうもありません。


 もし死んでも再度どこかの異世界に生まれ変われるのかもしれませんが、だからといって死んでもOKというほど達観してはいないのです。今生においてやりたいことも沢山ありますし、家族や友人を悲しませたくもありません。



「う……だ、誰かっ」



 魔物は人の多いほうに向かうだろうとの浅知恵で、なるべく人気のない裏路地に入り込んでしまったのが今更ながらに悔やまれます。こんな場所で助けを呼んだところで、都合よく正義のヒーローがやってくるなんて幸運は……、



「誰か、助け――ッ!?」


「承知した」


「……はい?」



 ありました、幸運が。

 とはいえ、いったい何が起きたのやら。


 わたしも、当のナントカトゲトゲも、何が起こってそうなったのか分かりません。

 直前まで旺盛な食欲も顕わに大きな顎をギチギチと鳴らしていた魔物の胸部に、いつの間にやら大きな穴がぽっかりと開いており、数秒の後に、どう、と倒れてそのまま動かなくなったのです。


 ええと、つまりどういうことなんでしょう?

 助けを求めるわたしの声に気付いた誰かが、間一髪のところで助けてくれた?


 そういえば誰かが返事をする声を聞いたような覚えがありますが、路地の先を見通しても誰か人影がいるようには見えな――――。



「上だ」



 と、そんな風に命の恩人の姿をキョロキョロ探す姿を見かねたのか。

 屋根の上に立っていた人物が言葉少なに声を投げかけてくれました。


 さて、そのヒーロー様の正体がどこの誰だったのかと申しますと。



「お、王子様……でございますでしょうか?」


「肯定する」



 あの人間離れした銀髪の美貌を見間違えようはずもありません。

 如何なる手段によってかは未だ不明ながら、この状況から判断する限り、どうやらわたしは噂の王子様に命を助けていただいたようなのです。


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