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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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13/21

13.逃げるガール


 それから二日ほどは普段と変わらぬ平和な時間が流れていきました。

 頑丈な丸太を拳や手のひらで叩き続ける時間が平和なのかという点には異論を挟む余地がありそうですが、少なくともウチの修道院の敷地内ローカルの価値観においては平和です。そういうことになっています。


 わたしが来てからは初めてのことですが、騎士団が魔物退治で遠出するというイベント自体はこれが初めてというわけでもないようで。先輩方も特に心配している様子はありません。


 そういえばマー君から事情を聞いた時にも街の人々が不安がっているような様子は皆無でした。仮に騎士団が魔物を仕留め損ねたところで今回の目撃地点からはかなりの距離がありますし、そもそも街は周囲を高い石壁に守られているのです。魔物の存在を脅威に感じているのは仕事や用事で街の外に出ざるを得ない商人さんや旅人くらいで、街中で日常生活が完結している大多数の人にとっては、どこか他人事のように思えてしまうのでしょう。


 ちなみに、この修道院はその壁の外にありますが、石造りの頑丈な建物は門を閉め切ってしまえばちょっとした要塞のようなもの。それより何より、ここは魔物よりも遥かに恐ろしい院長先生の縄張りなわけでして。もしかすると街中よりも遥かに安全かもしれません。



 騎士団が出立してから三日目のお昼過ぎ。



「りっちゃんさん、本当にお買い物を代わっていただいて良かったんですの?」


「うん、いいのいいの! 例のマー君が慣れないお仕事を頑張ってるだろうからさ、ほら、朝の食事当番の時にパン窯の隅っこでこっそり焼いておいたお菓子でも差し入れようかなって」



 本当は今日の買い物当番はクーちゃんだったのですけれど、こんな理由で強引に代わってもらいました。我が親友の超絶美貌を拝む機会を奪われた街の男性諸氏には気の毒ですが、騎士団不在で平時よりも治安の悪化が懸念される環境に、浮世離れしたフワフワ美少女を近付けるのはどうかと思ったなんて密かな理由もありまして。


 まあ実際のところ治安がどうなっているかは見てみるまでは分かりません。

 騎士団の穴埋め要員として入っている士官学校の生徒さん方の頑張り次第ではあるのでしょうが、果たしてその仕事ぶりは如何なるものか。

 普段から自主的にパトロールをしているマー君はともかく、あの王子様がパトロールなんぞしていたら無闇やたらに人が集まって、かえって近所迷惑になってしまうのではないでしょうか。いえ、流石にその想像は失礼すぎるかもしれませんが。



「そういえば、マー君の持ち場ってどこだろ?」



 そんな疑問を抱いたのは、街に入った直後のこと。

 いつもは適当に歩き回っていれば元気な声が聞こえてくるので探すのに苦労することはないのですが、士官学校の実地訓練扱いということならば彼も普段のように自由に走り回ったりはしていないはず。

 まあ、しばらく買い物をしながら適当に探し回ってみて、見つからなければ同じ制服を着た同級生の皆さんに尋ねれば大丈夫でしょう……なんて。


 呑気に悩んでいられたのは、このあたりまで。

 平和な日常は、ごくあっさりと崩れ去りました。



「魔物だっ、魔物が出たぞ!」


「すぐ迎撃に……違う、門の外じゃない!?」


「街の中だ! あいつら羽根で壁を飛び越えてきやがった!」



 突如として響き渡る悲鳴。

 陶器やガラスが割れる音や、木箱や商品棚の破砕音。

 それが魔物によるものか、あるいはパニックになった人間によるものかも分かりませんが。


 カンカンカン、と。

 街中でも一際高い場所に作られた物見塔の鐘が、けたたましく鳴らされているのが聞こえます。しかし魔物が街のどこに現れて、どこに逃げれば安全なのかという肝心の情報は皆無。狂乱する人々の怒鳴り声や泣き声ばかりが、やたらと耳にうるさく聞こえてきます。かく言うわたし自身、間抜けにもそうした声を棒立ちのまま聞くことしかできていなかったのですけれど。



「そ、そうだ、どこか逃げないと……!」



 現れた魔物がどんな種類かも分かりませんが、このまま道の真ん中に突っ立っているよりは、どこでもいいから目立たない場所に避難したほうが僅かなりともマシに違いありません。


 こそこそと身を隠し、息を潜めて人通りの少ない路地から路地へ。

 魔物の襲撃理由が餌を求めてのことならば、より人の集まっている大きな通りに向かうはず。ならば逆に人気の少ない場所なら危険も少ないだろう、と。


 この時は合理的に判断して少しでも安全な行動を取っているつもりだったのですけれど、後から思い返してみたら、やっぱりこの時のわたしは大きく平常心を欠いていたのでしょう。



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