11.微妙に引っ掛かるガール
「へえ、やっぱり有名なんですね?」
王子様なる人種を見かけた日の夜のこと。
就寝前の話題のタネにと今日あった出来事を同部屋の皆さんに振ってみたところ、クーちゃん以外は全員がかの御仁のことを存じ上げていたようで。
修道院でのキャリアの長い先輩方は例のお仕事で他地方までお出かけする機会もちょくちょくありますし、必然的に世間のニュースに触れる頻度が高くなるのでしょう。未だ新人が入ってこないせいで、三年経っても未だ一番下っ端の我々とは違うのです。
「そういえば」
そうそう、その王子様についてちょっと気になることが。
昼間にマー君と一緒だった時は思い当たらなかったのですけれど。
「王子ってくらいですし、地元は王都のお城なわけですよね。それが何でまた、こんな地方の街の学校に入ったんでしょうね?」
この修道院の最寄りの街は今生でのわたしの地元と比べたら栄えていますが、話に聞く王都とは雲泥の差。ごく普通の一地方都市といったところでしょうか。マー君情報によると王子様は他の生徒と同じく学生寮で暮らしているようですし、お城で何不自由ない生活をしていたはずの人物が親元を離れてわざわざ来るほどの理由とは如何に。
「ああ、噂に聞いた感じだと療養の為……らしいよ?」
「療養? 見た感じ健康そうでしたけど、どこか悪いんですかね」
わたしの疑問に答えてくれた先輩のお一人も、真偽定かならぬ噂として小耳に挟んだ程度だそうですけれど。昼間にチラっと見ただけでは何とも言えませんが、剣術や馬術といった運動でも好成績を残しているという話から考えると違和感を覚えなくもありません。
特別に空気が良かったり温泉が湧いているわけでもない、ごく普通の地方都市を療養先として選んだことに関しても微妙に引っ掛かりを覚えなくもないですが……まあ人様の健康面をこれ以上邪推するのは流石に失礼の度が過ぎるというものでしょう。そもそも推理とも言えない当てずっぽうをいくら捻り出したところで、答え合わせのしようもありません。そろそろ話題の切り替え時か……と思ったところで。
「りっちゃんさん、ちょっとお聞きしてよろしいでしょうか?」
「はいはい、なんですか。クーちゃんさんや?」
わたしと同じく最寄りの街に王子様がいることすら知らなかったクーちゃんが、意外な方向から話題のパスを放ってきました。
「あのぅ、変なことを聞くようで申し訳ないのですけれど。先程から皆さんが話していらっしゃるのは、マクスウェル第一王子殿下のことでお間違いないのですよね?」
「うん、そうだけど?」
どうにも質問の意図が分かりません。
こちらの困惑を察してか、クーちゃんは更なる補足を入れてきました。
「あ、申し訳ございません。ずいぶん昔、十年近くも前のことなのですが、私が王都にいた頃に家族に連れられて登城した折に、一度だけ王子殿下のお顔を拝見したことがありまして。その時の印象と今のお話に出た殿方のイメージがだいぶ離れているように感じたもので」
そういえばクーちゃんは王都の出でしたっけ。
当たり前のようにお城行きエピソードが出てくるとは、この子ってばこちらが漠然と考えてた以上のお嬢様なのかもしれません。おっと、今は王子についての話でした。
「王子殿下は幼少の頃からお身体が弱かったそうで、王都でも人前にお姿を現すことが滅多になかったのです。同じ年頃の子供と比べても、ずいぶんと小柄で。それが健やかに成長なされたのであれば、大変喜ばしいことだとは思いますが」
ふむふむ?
まあクーちゃんが王子様を見たのが十年前とすると、当時はまだ五歳かそこら。そこから十年も経てば、別人のような健康体になっても不自然というほどではないでしょう。なにしろ王族なわけですから、通常の医術にしろ魔法にしろ国内最高水準の治療を受けられる立場ではあるはずですし。
「療養で来てるってことは、ここいらの水や空気が体質に合ってたってことなのかな? まあ、よく分かんないけど元気になって良かったね」
「ええ……はい、そうですわね」
軽い違和感はありつつも、相変わらず真相を確かめる術などありません。こんな話をしたこと自体、遠からず忘れてしまうのだろう……と、この時はまだ呑気に考えていたのですけれど。
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