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転生して聖女見習いになったと思ったら何故か毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極める流れになってるんですけど!?  作者: 悠戯


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10.気を遣うガール


 なんと、すぐ近所に本物の王子様が住んでいたとは。

 ちなみに、その実物がどんなモンかと申しますと。



「いやぁ、ああいう人っている所にはいるもんですね」



 パッと見の印象としては、クール系の超イケメン。

 天才的な芸術家が大理石から掘り出した彫像が、そのまま命を得て歩き出したかのような……なんて形容ですらも大袈裟ではない。むしろ言葉足らずにすら思えそうな、人間離れした銀髪の長身美男子でした。

 男女の違いこそありますが、ただそこにいるだけで周りの空間がキラキラ発光する幻覚をよく見る修道院ウチのクーちゃんとも良い勝負ができそうな美形ぶりです。



「なるほど、これは野次馬も集まりますわ」



 どうにか人混みを縫ってご尊顔を拝むことはできましたが、周囲の人だかりはますます増える一方です。その大半は妙齢の女性ばかり。他ならぬわたしだって、周りから見たら同じく美貌の王子様目当ての野次馬に見えていることでしょう。


 当のご本人はこういった状況に慣れているのか、すぐ近くで壁を成している人々に気付いていないかのように、優雅にお茶をおシバきになりながら何やら小難しそうな本のページを無表情でめくっておりますが。



「困りましたね、これじゃあ当分お店に入れそうもなさそうです」


「ボクは空くまで待ってもいいですけど、りっちゃんさんのお時間は大丈夫ですか?」


「うーん、あんまり大丈夫じゃないですねぇ……」



 そう、件の王子様は我々の目的地だった喫茶店にいたのです。

 近くに座ればご縁ができるわけでもないでしょうに、店内は王子目当てと思しき客で満席ですし、店外にも大行列ができています。せっかくマー君から奢りの約束を取り付けたというのに、これでは当分は入れないでしょう。

 一応は修道院のお仕事で買い物に来ている身としては、サボり時間が長くなりすぎると誤魔化すのが難しくなってしまいます。残念ですが、今日のところは引き下がるしかなさそうです。


 おのれ、王子め。

 この怨み、晴らさでおくべきか。

 いえ、向こうに非があるわけではないのですが。


 そうして、人だかりから離れて歩くことしばし。



「ふぅ、やっと落ち着いて喋れるようになった……」


「ええ、大人気でしたね!」


「うん、ただ個人的には苦手なタイプかも」



 まだ話したことすらない相手に失礼かもですが、氷を思わせるような無表情のせいか、どうにも近寄りがたい冷たそうな雰囲気を感じてしまいました。いえ、向こうも別にわたしに近寄って欲しいとは思わないでしょうが。あんな人が近所に住んでいたのは驚きですが、そもそも今後の人生で話す機会すらなさそうです。


 と、そんな印象をマー君に話してみたのですけれど。

 同じ学校に通う彼の印象は、わたしとは少なからず異なるようです。



「たしかに冷静な人ではありますけど、実際に話してみると意外と優しいんですよ。授業で分からないところとか聞くと、いつも親切に教えてくれますし」


「キミ、度胸すごいね!?」



 人懐っこい子だとは思っていましたけど、王子様に平然と勉強を教わりに行けるのは単にマー君が空気読めていないだけなのでは。それとも異性と同性とでは、同じ相手に対する距離感や印象の感じ方が違ってくるものなんでしょうかね。


 マー君曰く、件の王子様――マクスウェル第一王子殿下と仰るそうです――は、士官学校では勉強も運動も常にダントツ一番。それも彼の肩書きゆえに教師や周りの生徒が忖度を働かせているのではなく、たゆまぬ努力と才能によって実力でトップの座を維持しているのだとか。



「ははぁ、そんな人が王子様……第一王子ってことは、たぶん次の王様になるんですかね? だとすると、この国の人間としては頼もしい限りですけど」


「……ええ、本当に。ボクもそうだったら良いなって思います」



 おや、気のせいですかね?

 いつも元気なマー君にしては微妙に言葉の歯切れが悪いような。あそこまでのパーフェクト人類を前にすると、流石の彼も劣等感を覚えてしまうのかもしれませんね。



「ええ、自分と比べて落ち込んでしまうことも無いとは言えないですね。いえ、あの人を尊敬しているのは本当なんですけど……とても同い年とは思えませんし」


「んん?」



 はて、同い年とな?

 あの王子様と一緒というと……。



「ええっと、ちなみにマー君て今おいくつです?」


「ボクですか? 十五歳ですよ」



 同年代の女子平均と比べてもやや小柄なわたしと同じくらいの背丈なせいか、てっきり十二歳くらいかとばかり。初対面の印象から弟達と重ねて見ていたせいもありますが、まさかわたしと同い年だったとは思いませんでした。またも劣等感を刺激させても悪いですし、この誤解は彼には悟らせないようにしたほうが良さそうですね。



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