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恫喝と天秤

俺たちは、目的を果たしたので、荷馬車に乗り込み、貴族の邸宅を後にした。


邸宅の庭には兵士達がうずくまっていた。


「彼らはなんで警備もせずにうずくまっているの?」

とオルフェンスは尋ねた。


「さぁな、なにか拾い食いでもしたんじゃねえか」

と俺は言った。


「屈曲な兵士達もお腹を壊せば、脆弱なんだね」

オルフェンスは言った。


「それより、貴族達のあの苦虫を噛み潰したような顔みたか?」

と俺は尋ねた。


「そんな顔してた。緊張していて、顔なんか見れなかったよ」

とオルフェンスは言った。


あんなに楽しそうに、顔を紅潮させ興奮するような表情をしていて、緊張していたなんて、本当なのか?

俺はそう思った。


「お前緊張していたのか?」

と俺は尋ねた。


「当たり前じゃないか。いつだって緊張しているよ」

とオルフェンスは言った。


その言葉は意外だった。


しかし奴らは今ごろどんな顔をしているのだろう。

それを考えると笑いが止まらなかった。


「オルフェンス。お前の演説すごかったな」

と俺は言った。


「そうか。そうなのか。私にはよくわからない」

とオルフェンスは言った。


オルフェンスはいつもこんな調子だ。

自分のやっていることの大きさに気が付いているようで、

頓着しない。

まぁそれがオルフェンスの魅力の一つなんだが。

俺はもう少し誇っても良いと思う。


「オルフェンス。今ごろ邸宅はどうなっているだろうな」

と俺は尋ねた。


「兵士たちが恫喝でもされているのではないか?」

とオルフェンスは言った。


「そうかもな。しかし貴族の番犬も大変だな」

と俺は言った。


「あぁあんな者たちのために、命をかけないといけないなんて、とんだ罰ゲームだ」

とオルフェンスは言った。


「それは手厳しいな。しかし確かにそうだ。罰ゲームだ。平民でのんびりやってるほうが、よっぽど幸せだ」

と俺は言った。


「そうだな。私はきつねとこうやって一緒に入れることが幸せだ」

とオルフェンスは言った。


「急になに言い出すんだ。驚くじゃねぇか」

と俺は言った。


「そうか。そうだな。でもな。こういう事は言える時に言っておかないと、後悔することになる。私は師匠にちゃんと感謝とか伝えられなかった。ありがとう。きつね。私は君のおかげでずいぶん楽しくやっているよ」

とオルフェンスは言った。


そうか。そうだな。感謝は伝えないとだな。


「俺もだ。オルフェンスがいてくれてよかった。楽しいしな」

と俺は言った。


オルフェンスは紅くなった。


「なんだ。照れてんのか?」

と俺は言った。


オルフェンスは、はにかみながら、笑った。

その笑顔がなぜかなまめかしく思えた。


荷馬車にはワインがまだ残っていた。


オルフェンスはそれを手に、

「どうお酒でも」

と笑う。


俺は、オルフェンスから酒を取り上げ、ワインの瓶を岩に向かって投げつけた。


(ぱりーん)


「ごめん。美味しそうなワインだったのに手が滑った。

俺らは平民だから居酒屋で安酒でも飲もう」

と俺は言った。


……

その頃、貴族の間では議論が紛糾していた。


吟遊詩人オルフェンスとその従者の処遇だ。

逮捕し極刑に処すのが妥当だという意見と、

影響力が甚大ゆえ抱え込むのが妥当だという意見が対立した。


逮捕し極刑に処すのが妥当だという意見は、パーティの主催者が中心メンバーだった。

逆に影響力が甚大ゆえ抱え込むのが妥当だという意見は、民衆の暴動で新しく領地を得た新興貴族や、革新的な考えの若い貴族が中心だった。


「あんな輩がのさばっては我が国の治安が守れない」

と極刑派は主張した。


「始末するのは簡単だ。しかし始末した瞬間。今度は我々が危うくなる。つねに民衆の暴動を恐れないといけないことになる」

と抱え込み派は主張した。


どちらも、治安の安定のためだったが、そのアプローチは完全に異なった。


議論は10数時間に及んだが、決着はつかなかった。


そして王国の貴族は

オルフェンスたちを

・極刑に処する

・抱え込む

・放置する

の選択のうち、どうするかで3分に割れた。


貴族達は皆、自分の立場や今の状況を天秤にかけて判断した。


新興貴族は、そもそもオルフェンスが暴動の火種にならなかったら、今の地位はないので、抱え込む派だった。

貴族の中でも地位が高いものたちは、今の地位を安寧に保つことが優先されたので極刑派がはじめは多かった。

しかし、オルフェンスが演説した内容をよくよく精査してみると、あの演説は我々と敵対したいものではなく、どちらかというと開放したいという気持ちの表れではないかという解釈が広がり、抱え込むまではしないが、放置でいいのではないかという穏健派がじょじょに増えた。

またそもそも領民たちと仲良くやっている貴族たちは、放置派が多かった。

最終的に極刑派が2割、放置派が6割、抱え込む派が2割あたりで落ち着いた。



……


俺らは、居酒屋で飲み始めた。

オルフェンスの腹が鳴る。

「なにか食おうか」

と俺は言った。

オルフェンスはうなずいた。

店主に

「なにか美味いものはあるか?」

と尋ねると、

「今日はサーモンの兜焼きがある」

と言われた。

俺は

「じゃあそれを頼む」

と言った。

オルフェンスは

「兜焼きって何?」

と聞いてきた。

「それゃ兜焼きというぐらいだから、兜みたいな鍋で焼いてるんだるう」

と俺は言った。

10分後、届いたのはサーモンの頭

を焼いたものだった。


俺は店主に

「これはどうやって食うんだ」

と聞いた。


「適当に魚を食うように、骨をさけながら、身を食っていけばいい。目も食えるし、脂がのって美味いぞ」

と店主は言った。


オルフェンスは

「よくよく考えたら、こんなタイミングで頭を食うなんて、縁起が良いじゃないか」

と笑いながら、兜焼きを食った。


「たしかにな」

と俺も食った。

店主が言った通り、確かに美味かった。

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