罪人達と子供たち
国王が御触れを出し、一般に通達したことで、オルフェンスの名は国中に広がっていた。
居酒屋での演奏はキャンセルが続いた。
オルフェンスは人気があり、人も呼べるのだが、演奏させると店を潰される可能性が高い、そういう懸念があり、多くの店は演奏をキャンセルした。
ただ出演料に関しては、どこの居酒屋も支払った。
「すまん。いまはあんたを出したら店が厳しくなる。安全になったらまた頼む」
という事だった。
俺とオルフェンスは暇を持て余していた。
そんな中ギルドから一通の文が届く。
そこには
『罪人達と子供たち』
そう書かれていた。
ギルド側も、安全性を担保しようと、直接的な命令は出さなくなった。
この文書から意図を読みとれという事だ。
王国で罪人と言えば2つの集団が想定される。
一つは罪を犯し、牢獄に捕らえられた者達。
もう一つは戦争の捕虜だ。
どちらも罪人と呼ばれ、過酷な労働に従事させられている。
ただ牢獄に捕らえられた者達は、国の管理下に置かれており、コンタクトは難しい。
一方戦争の捕虜は、商人や貴族、大農園などに労働力として売られることが多い。
ギルドが狙うとしたら、捕虜のほうだろう。
そして子供たちというのは、主に孤児たちを指す言葉で間違いないだろう。
まず『たち』という言葉は集団を指す。
学校の生徒たちも『たち』ではあるが、親もおり、安定した生活を送っている者が多いだろうから、歌は響かないだろう。
一方孤児たちには、この国では権利がなく、家畜扱いだ。
つまり孤児に向かい歌えという指令だ。
俺はオルフェンスに伝える。
「今度は、戦争の捕虜たち。つまり罪人と呼ばれる者達。あと孤児たちだ」
と俺は言った。
「そうか。
孤児か……」
オルフェンスの顔が雲った。
俺はかける言葉が見つからなかった。
オルフェンスも孤児だ。
思うところも色々あるのだろう。
「辛いなら無理強いはしないぞ」
と俺は言った。
オルフェンスの辛そうな顔を見るのは耐えられない。
「あぁ大丈夫だよ。
すこし外の風に当たってくる」
オルフェンスはそう言い、外に出た。
しかし1時間ほど過ぎても戻ってこない。
俺は心配になり外にでる。
すると両手いっぱいに屋台の料理を抱えたオルフェンスがそこにいた。
「どうしたんだ。それ」
と俺は尋ねた。
「いや。
ぷらっと広場に出たんだ。
するとあちこちから声をかけられて、
これ持っていけ。
元気出せよ。
お前の歌俺は好きだぞ。
とか言われて、このざまさ」
とオルフェンスは笑った。
取り越し苦労だったみたいだ。
オルフェンスは大丈夫だ。
「私一人じゃ食いきれないから、きつねお前も食え」
そう言い、オルフェンスは、多量の料理を手渡した。
オルフェンスは、料理にかぶりつきながら、考えていた。
「俺らは、罪人だと言われるが、どんな罪を犯したんだろう。
ただ、家族を守り、国を守ったのが罪だったのだろうか」
オルフェンスは言った。
オルフェンスは虚空を見つめている。
その瞳は、何かを考えているというよりも、空に浮かぶ微かな文字を読み取ろうとしているようでもあった。
そういえば、オルフェンスに昔聞いたことがある。
「なぜ。そんなに曲を思いつく」
と……、
「思いつくんじゃない。もうすでに歌はあるんだ。ただ他の人には見えない所に隠されているだけ。必要な時に、それが見えるんだ」
と、そうオルフェンスは言った。
その時は、おかしい事を言ってやがる。と思ったものだが、彼が詩を書く姿を見ていると、本当にそのように見えてくる。
オルフェンスはこうも言っていた。
「いったん、言葉の端っこを見つけると、そこから芋蔓式に言葉は見つかる。
しかし、その瞬間見つかる言葉がなくなると、少し休まなければ言葉は見つからない。言葉と言葉は連携が取れているのが、明確にわかるのに、部品ごとに隠されている場所が違うのさ」
俺にはわかるようで、意味がよくわからなかった。
神使だったころ神々との対話でも、同じような経験があった。
しかしオルフェンスの言葉も、神々との対話も、
俺の認知がそこに追いついた瞬間。
立体的にその姿を現す。
あぁそういう事だったんだと。
そうか、こう表現するしかなかったんだなと。
そしてようやく理解する。
正確無比な表現だったのだと。
オルフェンスはまた虚空を見つめている。
「家族を守り、国を守ったのが罪だったのなら、王国の兵士や騎士たちも同じ罪人であろう。罪人が罪人をさばくことなどできようか」
オルフェンスは言った。
オルフェンスは続ける。
「俺らは、罪人だと言われるが、どんな罪を犯したんだろう。
ただ、家族を守り、国を守ったのが罪だったのだろうか。
家族を守り、国を守ったのが罪だったのなら、王国の兵士や騎士たちも同じ罪人であろう。
罪人が罪人をさばくことなどできようか」
オルフェンスは一言
「これだ」
と言った。
オルフェンスは続いた言葉を紡ぐ。
「あの子と僕と何が違うの?
あの子はキレイな服を着て、働かなくても、たらふくパンを食える。
僕はボロボロの服を着て、働いても、いつもお腹がすいている。
あの子と僕と何が違うの?
僕も働かなかったら、たらふくパンを食える。
うんうん、働かなかったら、動かなくなるまで殴られる。
あの子と僕と何が違うの?
そうか。親がいないからなんだね。
じゃあ。
あの子も親がなくなれば、僕と同じ目に
僕も親がいたら、あの子と一緒の生活が送れるんだね。
王様や神様はいったよね。
民は我が子もどうぜんだと。
どうして、僕は一生懸命働いても、お腹がすいているの?」
俺は金縛りにあったかのように、そこから一歩も動けなかった。
その言葉は重すぎた。
いや。
知ってはいたが、目をそらしていた現実を目の前に突きつけた。
言葉は刃とはいうが、ここまで優しく、強力に突き刺さる言葉があっただろうか。




