宮廷の吟遊詩人と野良の吟遊詩人
私はオルフェンス。
野良の吟遊詩人だ。
居酒屋で歌っていたら。騎士たちに拘束されて、
王城まで連れてこられた。
まったく意味がわからない。
そして私の目の前にいるキレイな服に身を包んだ者たちが、
宮廷の吟遊詩人さまだそうだ。
「おい貴様。オルなにがし。お前はなぜ吟遊詩人などしておる」
青い服の男は言った。
「ふふ。私は生まれて時から吟遊詩人だ」
私はそう言った。
「ふざけるな。生まれた時から吟遊詩人と言えるのは、私達のように尊い身分の者だけだ」
赤い服の男は言った。
「ほぉそうかい。君たちは生まれた時から吟遊詩人なのかい。それだったら、さぞかし美しい歌を歌えるんだろうな」
と私は言った。
「もちろん、この王宮に残るすべての歌をここにいる者は完璧に歌える」
黄色い服の男は言った。
「この王宮に残るすべての歌……それだけか」
と私は言った。
「なにを王宮に残る歌だけでも300曲はくだらない。それがどれほど大変か。それに民間の歌など下劣なもの歌う必要はない」
と桃色の服の男は言った。
「いや。そうじゃない。お前らは吟遊詩人だろ。なぜ自作の歌を歌わない」
と私は言った。
「これだけの素晴らしい歌があるのだから、自分で作る必要なんてない」
と緑色の服の女は言った。
一同うなづいている。
俺の師匠。育ての親はこう言った。
「吟遊詩人は、即興で歌を作れて初めて一人前だ」
と、つまりこいつらは、まだ半人前なのか。
そうか可哀そうに。
俺よりもずいぶん年上に見えるが。
残念なやつらなんだろう。
「そうか。すまなかった。君たちはまだ歌を作れない半人前なんだな」
と私は言った。
「違う。作れないのじゃない。他に素晴らしい歌があるから、あえて作らないだけだ」
と赤い服の男は言った。
「それは他の素晴らしい歌と比較をすれば、見劣りするだろうから。作らないという事だろ。それは半人前ということではないのか」
と俺は言った。
「君は歌というものを、わかっていないようだな。私の歌を聞きたまえ。その美しさに驚くだろう」
と黄色い服の男は言い、突然歌い出した。
赤い男も、青い男も気持ちよさそうに歌っている。
彼らは気持ちよさそうに10分ほど歌った。
「宮廷の吟遊詩人っていうのは、王様を褒める歌しか歌わないのか?」
と私は聞いた。
宮廷の吟遊詩人たちはざわつく。
考え込んでいる。
「いや。恋の歌もあるぞ」
と青い男は言った。
「それはお妃さまが王様に惚れるという内容じゃないのか?」
と私は言った。
「なぜ知ってる」
と青い男は言った。
「そんなことより、王様を褒める歌以外にないのか?」
と私は聞いた。
「王を称える歌以外になにがいるというのだ」
と桃色の男は言った。
「風の音と共に、塔のほうから微かな歌声が聞こえる。
それは天使のささやきのようで、
私の心はそよ風によりそう綿毛のように天上へと舞い昇った。
私はそーっと塔に近づく。
微かな歌声がかき消されないように。
胸の鼓動をさとられないように。
私はそーっと塔に近づく。
真っ白の絹のドレスを身にまとった美しい亜麻色の髪の少女が。
窓辺に座り、鳥たちと共に美しい歌を歌っている。
それは天使のささやきのようで、
私の心はそよ風によりそう綿毛のように天上へと舞い昇った」
と私はリュートを手に歌った。
「聴いたことがないが、いい歌だ。だれの作品だ。いつの作品だ」
と赤い男は言った。
「オルフェンス作。いま作った作品だ」
と私は言った。
皆目を見合わせる。
「嘘だ。そんなはずはない。歌を作るというのは、時間がかかる作業だ」
と黄色い男は言った。
「野良の吟遊詩人は、その場の客層に合わせて歌を作る。
気に入ってもらえないとチップがもらえないからな」
と私は言った。
「そうか。私達は王様に気に入られさえすればよかった。そして新作を作るリスクよりも、確実に受ける古典を選んだ。その差か……」
と青い男は言った。
そこに一陣の風が吹き、
黒装束に仮面姿のきつねが現れた。
「オルフェンス助けにきたぜ。
さぁ逃げよう。
その前にこいつら始末するか」
と短剣を抜き、逆さに構える。
「やめとけ。こいつらは愚かさを助長はするが、血を流す必要はない」
と俺は言った。
吟遊詩人たちは、ほっと息をつく。
「再度問おう。君は弁もたつ。頭も良い。野良の吟遊詩人なんてするより、いろいろ稼ぎ口はあったはずだ。なぜ吟遊詩人を選んだ」
と青い男は言った。
「僕は臆病でね。しかし正義感はなぜか強いときてる。そして物語や歌が好きだ。労働も嫌ではないが……
楽器を手に歌っているのが性にあっている……だからじゃないかな。
吟遊詩人なんて商売をしているのは。
ふふふ楽じゃないよ。
命を狙われるしね。
彼が守ってくれないと私はここには存在していないよ。
私なんて存在はニオイみたいなものさ。
人によってはいい香り、人によっては不愉快な臭い。
だが私はどんな空間にも忍び込んでいく……、
例え王城といえども空気の流れがある限り、ニオイの侵入は防げない」
と私は言った。
「ニオイならほかの香りでごまかせばいい」
と黄色い男は言った。
「それはそうだね。君は頭がいい。しかし想像してご覧。強烈な悪臭が、いい香りで100%カバーできるのかってことを……」
私はそう言った。
吟遊詩人たちは、言葉を失った。
商売道具が口である者たちが、言葉を失う瞬間ほど滑稽なものはない。
それは騎士が剣を失うようなものであり、リュート弾きがリュートを失うようなものだ。
商売道具を失ったものは、決まって借りてきた猫のように、おとなしくなる。




