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指令と栄光

この大陸にはたくさんの国がある。

しかし特に今は大きな戦争は起きてはいない。

かろうじて均衡が保たれていると言っていいだろう。

そして今俺たちがいるのは、腐敗と魔王軍の侵攻で崩壊寸前の王国だ。

この国の動向を今大陸中の国々が注目している。

もしこの国が魔王軍の手に落ちれば、大陸の地図は赤く塗り替えられてしまうからだ。

ただだからといって、どこも助け船を出そうとはしない。

どこの国も膠着状態で、兵に余裕なんてないからだ。

しかしほっておけば、大陸が滅びに向かうのは目に見えている。

その崩壊を防ぐのが、我々の使命だ。

そして崩壊を防ぐために使うのは、歌を主とした情報操作だ。

もう一度言う。

崩壊を防ぐために使うのは、歌を主とした情報操作だ。

剣や兵といった暴力装置は一切使わない。

歌を主とした情報操作。

つまり『口』だけで、崩壊を防ぐ。

ひいては大陸を守る。

それが我々2人の任務だ。

まったく馬鹿げていると思わないか。

歌で情報操作だぞ。

そんなことが本当にできるのかどうか。

ほとんどの奴が荒唐無稽だと、笑い出す。歌で情報操作?

そんなもので国を変える。

君は夢想家なのかい?

そう言いたくなるだろう。

しかし、歌で情報操作をし、国を変えることは可能だ。

俺が神使としていた世界にも、音楽はあった。

そして音楽は世論を動かし、政治を変えた。

ソウル、フォーク、レゲエ、ロック。

様々なミュージシャンが、思想を言葉とリズムに乗せ、若者を動かし、世論を動かし、政治を変えた。

俺がいたのは、民主主義の国だったし、政治が動いたのも、民主主義の国だったが、絶対王政の国であっても、音楽と情報操作で国も政治も動く。


では、腐敗と魔王軍の侵攻で崩壊寸前の王国を歌でどうやって変えるのか。


単純なことだ。

腐敗を取り除けばいい。

ただそれだけだ。


腐敗を取り除き、正常の機能を取り戻しさえすれば、魔王軍の侵攻を食い止めることができる。


しかしただそれだけのことが、

今まで沢山の犠牲を費やしてもできなかった。


なぜだかわかるだろうか?

人々の欲望が複雑に絡み合っているからだ。


世間では、よくこういわれる。

大きな危機の前では人々は協力しあうと。

これは反面本当で、反面嘘だ。

大きな危機の前ですら、その危機が利益になる連中は、危機をあまんじて受ける。


世界は単純な論理で動いている。しかし人々の欲望という変数を入れた瞬間。

複雑さは指数関数的に増大する。

人は利益で動く。これは皆が理解できるだろう。

では戦争はなぜ起きる。

傷つき亡くなるものが多いのに、なぜ戦争は終わらない。

人が利益で動くからだ。

傷つき亡くなるものよりも、戦争で利益を得る者の政治力が強ければ、戦争が起こる可能性が格段に上昇する。

つまり……、

人が利益で動くという論理の上に、

政治力が強い方が政治を動かすという論理を重ねる。

これが政治を読み解く鍵なのだ。


俺が神使だったころ、

毎日たくさんの人間が訪れた。

戦時中は、

「我が国に勝利を」

「せめて我が子だけでも無事に」

「家族皆が無事で」

そんな願いであふれた。


神々はよく嘆いていた。

バランスが取れない願いばかりだからだ。


「我が国に勝利を」

は最もわかりやすいバランスが崩壊した例だ。

たとえばA国とB国で戦が始まったとする。

A国でもB国でも、人々は神に祈りを捧げる。

A国に勝つ。

B国に勝つ。

これで勝負がつくのだろうか。

神々の力がA国とB国で均衡していた場合、どうなるか?

神々の力では勝敗はつかない。

残りは国同士の力の論理や戦略や戦術などの変数によって変わってくるのだ。


「せめて我が子だけでも無事に」

「家族皆が無事で」

これも、バランスが崩壊している願いだ。

A国でもB国でも、人々は神に祈りを捧げる。

兵士たちの親兄弟は皆

「せめて我が子だけでも無事に」

「家族皆が無事で」

と願う。

戦争で無事を願った場合、どうなるか?

神々が全ての願いが受け入れられると、

結局誰も死なないという結果になるだろう。

しかしそうはならない。

戦争で人が死ななかった事など、数えるほどしか例はない。


わかるだろうか。

神への願いも、

政治への願いも。

究極には同じ類のものなのだ。


そのバランスを欠いた願いが、世間に一定数量溜まり、オーバーフローした瞬間。

大きな災いが起こる。

それが戦争という形、

革命という形、

経済危機という形、

様々な形で災いとなる。


結局のところ、我々の調整調律というのは、このバランスを欠いた願いを、国が赤く染まるという大きなショックを受けずに、歌で調整させるということなのだ。


戦時中に好まれた歌と、戦後に好まれた歌を聴き比べるとよくわかる。

そして、今流行っている歌詞を読み解く。

勘の良い人なら、

たくさんの思惑が感じ取れるだろう。

あらゆる歌と情報操作を持って、世界を整流へ調律する。

そういうベクトルが働いている事に。

勘の良い人なら、気がつくだろう。

何気ない恋の歌が、少し見方をずらした途端……、

解放の歌へと変容する。

何気ないわらべうたが、少し見方をずらした瞬間………、

呪術的色彩を持った歌へと変容する。


歌はまるでウイルスのように人へ人へと感染する。

そして確実に意識を変容させる。

無意識に口ずさむ歌詞。

意味を考えながら歌っているのだろうか。

不可解な詩。

意味を考えた事があるのだろうか。

言葉は魔法であり呪でもある。

相手の本名を知る事でマナを縛る。

言葉は言霊と言われ、現象を引き起こす。

レモンという言葉で口には唾液が溢れる。


そう……、

君はもう気がついただろう。

言葉の持つ。

呪術性を。


君は一体……、

無意識の言葉によって、

これまで何を引き起こした。

正確に説明できるものなど、この世に存在しないだろう。

計算は不能。

恐怖と困惑……、

それが頭をよぎるだろう。


どうだろう。

これでも歌で国が動かせないとまだ思うのかい?


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