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折られる騎士の剣

きつねが出ていってから、しばらくたつ。

昨日

「明日の昼頃にはそちらに着くと思う」

と手紙が届いた。

きつねが帰ってきたら、何を食べに行こうか。

きつねが出ていってから、ご飯が美味しく感じなくなった。

なんだか、お腹の中にぽっかりとした空間が空いたような。

そんな変な感覚だった。

きつねと出会うまでは、よく1人でご飯を食べていたが、こんなだったのかなぁ。

多分きつねはご飯を美味くするようなニオイかなにかを発しているに違いない。

私は宿屋で朝食を食べる。

この宿屋の朝食は、小麦を薄く焼いた膨らみのほとんどないパンに、トマトと豆、そしてひき肉を煮込んだソースを塗ったものと、ヤギのミルクで紅茶を煮込んだものだ。

これに甘い草を煮込んでとったシロップを入れて飲む。

これがなかなかに美味い。

宿屋の女将の娘が話しかけてくる。

「ねぇねぇオルフェンス。

きつねはまだ帰ってこないの?」


「今日のお昼には帰ってくるみたいだよ」

と私は言った。


「これでようやく怖い夢見なくなるね」

と女将の娘は言った。


「そうだね」

と私は言った。


私はきつねに会う前に、盗賊に襲われ育ての親だった師匠を亡くした。

それからよくその日の夢を見ていたが、きつねと行動を共にするようになってからは、その夢は見なくなった。


そしてきつねと離れてから、またあの時の夢を見るようになった。


多分なんか安心するんだろう。

きつねといると。


外が騒がしい。

窓からそっと外を見ると、

宿屋の周りを騎士団達が取り囲んでいる。

宿屋の女将がやってきた。

「どうしましょうオルフェンスさん」

と女将は言っている。

何がどうしましょうかだ。

正直に、ちょっと騎士団が来てるので、ここでトラブルを起こされては、いい迷惑なので、外でやってもらえますか?

と聞けばいいじゃないか。


そんな風に思っても、口に出さないのが紳士ってもんさ。


あぁきつねはタイミングが悪い。

なんだって今日みたいなギリギリのタイミングで騎士団がやってくる。


私はなにか、騎士団に目をつけられるような事をしたか?


いや……、してないよな。

うんしてない。

してないはず。

じゃあ、

このまま寝てても良いよな。


よくないか……、

まぁいいか。

きつねが助けにくるだろうし、

例えここで終わっても、やりたい事はほとんどやってるし、食べたいものはほとんど食べてるし、悔いはないだろう。

できれば、きつねに看取ってもらいたかったなとは思うけど。

まぁいい。


私は覚悟を決めて、宿屋の外に出る。


騎士団の中で特に身体の大きなものが出てきた。

「俺は王国の騎士団長。貴殿がオルフェンス殿であるか?」

と尋ねた。


「そうさ。私がオルフェンスさ」

と私は答えた。


団員達は剣に手をかける。


「何?こんな町中で物騒な……、

頭おかしいんじゃないの?

こんなやわで非武装な吟遊詩人相手に大勢の鎧兜をかぶった大男達が剣を持って対峙するなんて……、

恥ずかしくないの?」

と私は言った。


「何を?騎士にたいして無礼だぞ」

と1人の騎士は言った。


そうだ。そうだ。

と騎士達は同調する。


「そう無礼か?

いきなり人のところへ来ておいて、剣に手をかけるほうが無礼だろ。

お前ら一体なにを習ってきた」

と私は言った。


「静粛に。お前ら剣を納めろ」

と騎士団長は言った。


「しかしこいつは危険人物ですから」

と騎士団員は言った。


「ハハハハハ。

君達は本当に臆病なんだね。

君らより、ずっと力の弱い吟遊詩人の若造が非武装でいるのに、ずっと強い君達が武装し、しかも剣を握り続けるなんて。

王国の騎士達はとんでもなく臆病だ」

と私は言った。


「剣は我らが誇り」

と騎士団員は言った。


「フフフ、

君たちは剣で戦えばいい。

私は心で戦うさ。

私のハートのほうがよっぽど強いからね」

と私は言った。


「黙れ。我々は王国の騎士。この国の良心であり、我々が善。

粛清してくれるわ」

と騎士団員が言った。



「黙れ。

愚か者たちよ。

自分の良心に聞くといい。

我は本当に騎士なのか?

我は本当に善なのか?

我は本当に祝福を受ける価値があるのか」

と私はそういった。


場は一瞬にして凍り付き。

私の言葉が盤上を制圧する。


騎士たちは、一人、また一人と剣と落していった。


”本当に騎士なのか”

残酷すぎる言葉に、

騎士たちの剣は、その役目を果たすことができなくなったのだ。



そして、ようやくきつねが戻ってきた。


きつねは警戒心を顕にして、短剣に手をかける。


私は

「大丈夫だから」

ときつねに声をかける。


騎士達は沈黙し俯いたままだった。


この王国を信じて、ここまで生きてきたのだろう。

その王国への信仰が今揺らいでいる。


私は彼らの剣ではなく、心を折ったのだ。

剣が折れても拳で戦える。拳が傷ついても蹴りで戦える。蹴りができなくなっても噛みついて戦える。

噛みつけなくなっても頭脳で戦える。

しかし心が折れたら、もう戦えない。


屈強な男がヨボヨボの老人にすら勝てなくなるのだ。


先ほどの騎士団長が力なく近づいてきた。

「オルフェンス殿、たいへん申し訳ないですが、王に会ってはいただけませんでしょうか。

王がオルフェンス殿に興味を持たれておいでです。

我ら王に逆らうことはできません。この通りです」

と騎士団長は頭を下げた。

つられて他の団員達も頭を下げる。

町中の皆は驚いた。

いつも厳しい顔をして歩いていた騎士達が、平民の吟遊詩人に頭をたれている。

「オルフェンス。なにがあるかわからないぞ」

ときつねは言った。

「わかったよ。いくよ。街のみんな。オルフェンスはこれから王に会ってくる。3日たっても戻らなかったら、処刑されたと思って、盛大に葬式でもしてよ。

私の金の一部を宿屋に預けておくから、飲み代はオルフェンスが奢らさせてもらうよ。

じゃあな」

と私は言った。

そして宿屋の女将にお金を預け、騎士団についていく。


「俺も行く」

ときつねはついてきた。


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