第8話 最低限の配慮とともに喰らい暴れるサメ
その異変に、まず気がついたのは、半々蔵であった。
突然静止したので、背なかにドンと隣村の若造がぶつかる。
「おい、とまってんじゃねー! この砂浜も溶けるほどの熱に、その身をゆだねろよ!」
鼻をおさえながら激高する若者は、
「キャー!!」
という悲鳴にさえぎられ、怒鳴りつづけることができなかった。
そちらへと目を転じると、そこには……
「シャァァァァク!!」
という咆哮とともに、海から大きなサメが顔をあらわし、そのギラリとした鋭い歯を人々へ向けているのだ!
悲鳴をあげていた女子は、かたまってしまって指ひとつ動かせず、サメに上半身を喰われブシャアアアと噴水のごとく血が噴き出している。
人々は恐慌状態へおちいり、逃げ惑った。
しかしなにぶん腰下まで海につかっており、そのうえ密集してもいるためうまく逃げられず、サメからすれば入れ喰い状態である。
男も女も、老いも若きも関係なく、近くにいるものからつぎつぎと喰われ、噴水ショーのごとく各所で血が天へとのびあがる。
いや、幼いこどもと犬だけはなぜか被害にあわず逃げのびている。
サメといえども最低限の配慮はなしうるもののようである。
「ガッハッハッハッ、サメ神さまァ、エサたんまり用意しましたんで、満腹になるまで喰らってくださいやァ!」
少し離れた草むらで腹をかかえて笑っているのは、そう、エッチ後屋と野盗どもである。
なにを隠そうエッチ後屋が、放蕩の日々にて会得した面妖な忍術により、サメを召喚して意のままに操っていたのである!
ある里においては邪法ともされている術であったが、いったいどんな悪辣な手口で学んだものか、それは彼のほかに知る者はない……。
そこへ、ちょうどひとりの女子が逃げてきた。
どうも、「びきに」を身につけていることからおタカJrの一派であると知れた。
なかなか豊満なからだつきの娘であったため、走ることで胸が揺れ、現代のような技術のない時代のこととて「びきに」がはらりとはずれてしまった!
が、ぽろりとそのふたつの白桃がまろび出てしまう直前で、エッチ後屋がさっと出ていき布をまとわせてやる。
「あ、あ、ありがとうございます……」
「親分! あと少しで見れたのになんてもったいねぇことを……」
そううっかり文句をたれたのは、野盗のひとりうっかり百八兵衛であった。
「バカやろ!!」
そこへ雷のごとき叱責を落としたのは、むろんエッチな話題に一家言をもつエッチ後屋である。
「女のカラダってのは口説き落として同意のうえで見るからすばらしいんだ。本人が望まぬ肢体をさらしそうになったときは、見ずにいてやるのが男ってモンよ。のぞき見なんざは天のまえに、法のまえに、まずこのおれがゆるしはしねェ……。大丈夫かい、嬢ちゃん」
「は、はい。あの、あなたのお名まえは……」
エッチ後屋の口上に胸をうたれたのか、そのたくましき腕のなかで女子がとろりとした目をして問う。
エッチ後屋はニヤリと笑い、
「なに、エサに名乗る名はねぇ」
と答えると、ちょうど暴れまわってこちらへと来ていたサメに女子を放った。
女子は「えっ?」と顔をひきつらしたあと、あっさりとサメに喰われ、残った腕からブシャアアアと血が噴き出している。
「ガーハッハッハ! いい喰われっぷりだねぇ」
心底愉快そうに、エッチ後屋はじめ野盗どもは哄笑している。
やはり、彼らにエッチなこと以外の倫理観などとうてい期待できぬものらしい……。




