第16話 サメ神さま、空を飛んで悪を討つ
「サメ神さまァ、あのクソ野郎を喰らってやれェ!」
高速でつむがれるエッチ後屋の呪文ののち、サメ神さま〈ばすと〉の目があやしくギラリと光る。
すると、すさまじいスピードで海からサメが射出される!
いわば「サメ砲弾」ともいえそうな超重量のその攻撃を、半々蔵は紙一重でかわし、おのれの刀で横腹を斬りつけた。
が、ズバリと裂くことのできたサメ神さま〈うえすと〉とは違い、その鮫肌はおそろしく硬度を増している。
かろうじて皮膚が裂ける程度の傷をつけることがやっとであった。
「はっはァ! あンときのように行くと思うなよッ!」
エッチ後屋が吠えつつ印を結ぶと、砂浜に突き刺さったサメ神さま〈ばすと〉がばったんばったんと反転し、陸とは思えぬ俊敏さでふたたびサメ砲弾が放たれる!
陸上のサメが海と同じようなスピードで迫ってくるとは想像だにできず、意表を突かれた半々蔵は紙一重でかわすも胸に傷を負い、やぶれた服に血がにじんだ。
「くっ、速い……!」
「半々蔵さまっ、大丈夫でございますか」
「おヒメどの、少々手荒くなりますので、離れていてくだされ! 人のいないここならば……」
そうつぶやいたのち、半々蔵もまたすばやく印を結び、
「臨兵闘者皆陣列在前――」
と呪文を口のなかでとなえる。
そうしているあいだにも、海へと戻ったサメがぐるりと泳いでふたたびその照準を半々蔵へと向ける……
「死ねェ、そしてサメ神さまの栄養豊富なエサとなれ、忍者野郎ッ!!」
エッチ後屋の忍力がますます高まり、その周囲から、邪気さえにおうほどの紫のモヤがただよいはじめた。
そしてその怒号とともに、さらに勢いを増したサメ砲弾がまっすぐに半々蔵のもとへ――
「忍法・火遁〈火炎龍〉の術!」
半々蔵がその術を放ったのは、サメが海から飛び出るのとまったく同時であった。
その名のごとく、半々蔵の口から勇壮なる炎の龍があらわれいでて、サメの全身をたちまちに焼きつくしていく。
「シャ、シャァァァァァク!」
サメは空中で炎につつまれ、いかにも苦しげな悲鳴をあげた。
半々蔵は追撃の手をゆるめない。
「忍法・風遁〈螺旋竜巻〉の術!」
そう唱えるとともに、サメの真下の地面から天までとどこうかという竜巻が立ちのぼってきた!
サメはぐるぐると風に巻かれ、身をズタズタに裂かれ、あらぬ方角へと吹き飛ばされていく。
「シャァァァァァク……」
どこか哀愁のただようその嘆声とともに、まことに奇妙な偶然だが、サメは村長たちがゆっくり茶をしばいている家のほうへと飛翔していた。
そこでは、
「やれやれ、おヒメをさし出してなんとかなったわい」
「いつ捨てようかと迷っておったが、ごくつぶしもこんなふうに役立つことがあるもんじゃなぁ」
「ひぃ、ひぃ、あの野郎、今度、いつか、殺してやる……」
と、村長とおババさまが雑談をかわし、手からにじむ血に泣きながらゲス吉父がエッチ後屋への怨嗟を吐いておった。
「しかしこれからどうしようかのぅ」
「じいさま、ご心配めされるな。おヒメの存在で巧妙に隠蔽しておったが、まだ第二第三の底辺村民はすでに迫害ずみ……。当面イケニエには事欠かんわい」
「なんと、さすが、できる女子は違うのぅ」
村長はスススとおババさまに寄って太ももをさすり、おババさまは「やんじいさま。そういうのはふたりきりのときに、ね?」と妖艶にささやき、ゲス吉父は「ひぇ~ん痛いよぉ」と泣きわめく混沌の状況となりつつあった。
炎につつまれたサメ神さま〈ばすと〉が乱入したのは、このときである。
飛来したサメは家をこなみじんに破壊、かつ村長とおババさまの四肢をついでのように喰い散らかしたので、ふたりは大いに苦しんで死んだ。
また、炎がおのれの身を取り巻くためにサメはもはや状況がわからなくなっており、混乱のままにゲス吉父の股間を何度も噛み砕いたため、彼もまた多大なる苦悶のうちに焼死した。
そのほか、おヒメを連れ出すのにニヤニヤしながら協力した村の男衆も下敷きとなり、やがてサメ神さま〈ばすと〉は絶命したものの、みごとに悪行をはたしたものだけを殺したため、
「サメ神さまの懲悪じゃ……」
と生き残った村人はおそれ、深々と祈りをささげた。
以後、この村では年に一度「わるい子はサメ神さまが喰らっちまうぞ!」と村人がサメに扮装して悪行をいましめる祭りが開催されるようになった、との伝である。




