第15話 激高するエッチ後屋の丁寧な状況解説
サメ神さま〈ばすと〉の歯が、忍者の胴体にしっかと喰い込み、もう出つくしたかと思われた血液がまたブシャリと飛沫をとばしたときであった。
「なんか大したことありやせんでしたねぇ」
そう高笑いを発するうっかり百八兵衛の声にまぎれるように、ある幽暗な声がひびいてきたのである――
「忍法・変化の術――解」
ばっとふりかえったのは、エッチ後屋ただひとりであった。
ほかのものはヘラヘラ笑っており「ひと仕事終わったな」「のもうぜ」「熟女抱きてぇ」「うちのカカァ抱かせてやろうか?」「それは本人の尊厳を尊重しておらずよくないし冗談としても下等だ」「ごめん」などすっかり気を抜いて雑談している。
そのとき――ひとりの野盗の首が、黒ひげ危機一髪のごとくスポンと飛んだ。
そこからすさまじい勢いで、ブシャアアアと血液が噴出する。
「なに、なに?」
困惑の声をあげるそのわずかなあいだに、ひとり、ふたりと、つぎつぎ首を、のどを、心の臓を、斬られて野盗どもが絶命していく。
血しぶきが派手に舞い、夏の青い空をその対照的な色でいろどる。
「血祭り」の語にふさわしい、まるで夏のカーニバルのごとき様相であった。
「きさまァ!!」
エッチ後屋が怒声をあげるが、密集した野盗どもにさえぎられなにが起きているのかはまったくはかれない。
そのあいだにも手下が殺されてゆく。
そのただなかをうごめくひとつの影が、砂浜に濃い足跡をのこし、高く跳躍した。
むろん、空を舞うその影はまぎれもなく――半々蔵その人であった!
「半々蔵さまァ!!」
おヒメが歓喜の絶叫をあげる。
半々蔵は野盗の大半を殺し、丸太に飛びつくと、すばやくおヒメをいましめるナワを切った。
そうしてお姫さま抱っこにて彼女を救出し、すぐに砂浜へとおろす。
「……そういうことかァ」
エッチ後屋がくやしそうに舌を打つ。
彼の視線は、モッチャモッチャとおいしそうに咀嚼中のサメ神さまの口のなかへと向けられていた。
するとどうしたことか、先ほどたしかに忍者の姿であったそのエサは、むさいひげヅラの自分の手下へと変貌しているではないか!
「お、お、親分! なにが起こってるのか、このうっかり百八兵衛でも理解できるよう、懇切丁寧に説明してくだせぇ!」
戦闘態勢をとることもうっかり忘れ、あわあわと動揺するばかりのうっかり百八兵衛がなんか偉そうに要求する。
「いつからかはわからねェが、手下のひとり『かまとと権八郎』と、あの忍者野郎が入れ替わっていたにちげェねェ。双方に変化の術をかけて、自分はおれたちの内部にもぐりこみ、かまとと権八郎の意識をうばっておれたちに近づかせ……おれたちの手で殺させたってワケだ」
ギリリと強く歯噛みをし、エッチ後屋は青竜刀を半々蔵へと向け、高らかに吠えた。
「一味はおれの家族も同然……その家族を、おれたち自身の手で殺させるなどという非道、ゆるせねェ! ぶっ殺してやるァ!!」
「村長のまえで手下ひとり殺してませんでした?」
「おれァいいんだよバカやろ!!」
うっかり百八兵衛のうっかり指摘に激高しつつ、エッチ後屋は手早く印を結ぶ。




