第八話:ベルーシャの追体験、四葉の悲しみ
ベルーシャは、みゆきの魔法の根源を探るため、自身のコピー魔法を駆使していた。彼女は、人形化された人々の「魂の残滓」をコピーし、その感覚を追体験しようと試みた。それは、極めて危険な行為だった。もし、みゆきの魔法が魂に深く刻まれていれば、ベルーシャ自身もその影響を受けてしまう可能性があるからだ。
ベルーシャは、街中で出会った、かつては活発な少年だったはずの、今は石像と化した子供の魂の残滓に触れた。
瞬間、ベルーシャの意識は、真っ白な空間に放り出された。そこには、感情も、記憶も、何も存在しない。ただ、漠然とした「幸福」と「平穏」の感覚だけが、無限に広がっていた。少年の魂は、まるで色を失った絵画のように、何の個性も持たず、ただ存在しているだけだった。
(これは……空虚だ。魂が、完全に浄化されてしまっている……)
ベルーシャの胸に、激しい痛みが走った。これは、死者蘇生の魔法が、魂から「負の感情」だけでなく、「個性」や「自由な意思」までもを抜き取ってしまった結果だった。それは、生きてはいるが、もはや人間ではない。まさに「人形」そのものだった。
ベルーシャは、すぐにコピーを解除し、荒い息を吐いた。彼女の顔は蒼白で、全身から冷や汗が噴き出していた。
「ベルーシャ、大丈夫!?」
四葉が駆け寄り、ベルーシャの背中をさすった。四葉の顔にも、深い悲しみが浮かんでいた。彼女は、街を歩くたびに、かつての友人や知人が、無機質な人形や置物と化しているのを目にしていたからだ。
ある日、四葉は、かつて自分が通っていた学校の校庭で、見慣れた姿の動物のぬいぐるみが、楽しそうに走り回っている子供たちの中に混じっているのを見つけた。それは、以前、四葉が可愛がっていた野良猫の「ミケ」によく似た、三毛猫のぬいぐるみだった。ミケは、いつも四葉に懐いて、校庭でじゃれついていた。
四葉は、そっとそのぬいぐるみに近づいた。ぬいぐるみの瞳は、ガラス玉のように澄んでいて、何の感情も映していない。しかし、四葉には、そのぬいぐるみの奥に、かつてのミケの魂が、閉じ込められているかのように感じられた。
「ミケ……?」
四葉が呟くと、ぬいぐるみは、ただ静かに、四葉を見上げた。その姿に、四葉の瞳から涙が溢れ落ちた。
「どうして……こんなこと……」
四葉は、ぬいぐるみを抱きしめた。その温かい感触は、かつてのミケの体温とは全く異なり、ただの布と綿の塊だった。しかし、彼女の心は、悲しみで張り裂けそうだった。愛する者たちが、こんなにも無残な姿に変えられてしまうなんて。
四葉は、この悲劇を止めるため、そして、みゆきを救うため、自身の幻想魔法をどう使うべきか、深く考え始めた。彼女の魔法は、世界に「幻想」を重ねる力を持つ。ならば、この「偽りの楽園」を打ち破り、真実の姿を取り戻すことができるのではないか。しかし、それは、みゆきが創り出した「現実」そのものに干渉する、極めて危険な試みでもあった。




