8話:白昼の変身
拓郎は、空に浮かぶ巨大な宇宙戦艦大和を呆然と見上げていた。
なぜ軍艦が空に? なぜ大和?
理解不能な事態に、彼の理性が悲鳴を上げる。そして、彼の周りでは、カミオタたちが「大和! 大和だー!」と歓声を上げ、神々が「おお、我が青春の戦艦!」と興奮している。この地獄絵図から、一刻も早く逃げ出したかった。
しかし、拓郎の願いも虚しく、運命の歯車は再び彼を巻き込んだ。
「吉本君」
その声は、空に響く戦艦の咆哮にも負けず、拓郎の鼓膜に鮮明に届いた。振り返る間もなく、拓郎の体を黒い影が覆い、次の瞬間、彼は何かに押されるように地面に仰向けに倒れ込んだ。
見上げると、そこには、信じられない光景が広がっていた。彼の体を跨ぐように、一人の少女が立っている。
風になびくスカートの裾。その隙間から見えたのは、鮮やかな赤い、レースのパンティー。しかも、それは紐パンだった。まばゆい日差しの中に浮かび上がる、その禁断の光景に、拓郎の思考は完全に停止した。
そして、その顔は、他ならぬミレイ・フレスターその人だった。朝に感じたあの甘く爽やかなリンスの香り、教室で嗅いだあの香りが、今、彼のすぐ目の前で、現実のものとして、確かにそこに存在していた。
「全く、いつまで寝ているつもりだ、この朴念仁が!」
ミレイの凛とした声が響く。
次の瞬間、眩い白い光が、彼女の全身を包み込んだ。
光が収束していくと、そこに立っていたのは、もうミレイ・フレスターの姿ではなかった。代わりに現れたのは、拓郎が今朝、彼の命を救った時に見た、あの姿。白とオレンジの毛並み、ぴんと立った狐耳、そしてゆらゆらと揺れる九本のふさふさとした尻尾。
それは、まさしく四葉様――神の国の盟主であり、神装師部隊の隊長、そして治安管理局局長である、九尾の狐の真の姿だった。
拓郎は、地面に仰向けになったまま、何も言えなかった。彼の理性が、現実を拒絶しようとも、目の前の光景はあまりにも現実だった。憧れの生徒会長ミレイ・フレスターと、神の国の盟主である九尾の狐の四葉が、まさか同一人物だったとは。
「これでは職務に差し支える!」
四葉は苛立ちを露わにすると、空に浮かぶ宇宙戦艦大和の方へ、鋭い視線を向けた。拓郎は、未だ口をあんぐりと開けたまま、その信じられない現実と、彼の視界に焼き付いた赤い紐パンの残像に、ただただ混乱するばかりだった。