7話:空飛ぶ戦艦と、拓郎の受難
放課後、吉本拓郎は重い足取りで帰路についていた。朝のマケドニアバーガーでの少女との奇妙な会話、そして彼女が神の国の盟主であること。頭の中は情報で飽和状態だ。それでも、目の前の現実からは逃げられない。
彼の視線の先、いつもの通学路の一角で、またしても撮影会が繰り広げられていた。アニオタの神々と、それを熱狂的に見つめるカミオタたち。朝の鉄骨落下事件以来、拓郎はこうした光景を目にするたびに、生理的な恐怖を覚えるようになっていた。
迂回すべきか。だが、今日はどうしても見たい番組があった。神の国と新日本政府が合同で発足した「神装部隊」の特集番組だ。彼の軍事オタクとしての好奇心は、もはや恐怖をも上回っていた。
(背に腹は代えられない! 今日こそは絶対に見逃せないんだ!)
拓郎は意を決し、深呼吸をした。そして、撮影会の隣をダッシュで駆け抜けようと、全力で地面を蹴った。
「どけええええええ!」
しかし、その叫びは、次の瞬間に彼を覆った巨大な影によってかき消された。全身を包み込むような、圧倒的な存在感。拓郎は反射的に空を見上げた。
「……は?」
そこに浮かんでいたのは、目を疑うような光景だった。鈍く光る鋼鉄の船体、いくつもの砲塔、そして特徴的な艦橋。それは間違いなく、彼の軍事知識が即座に識別する、軍艦だった。
しかも、そのサイズは、これまで見てきたどんな模型よりも大きく、そして、それが空に浮いている。
「でかい……でかい! でかい!!」
拓郎の口から、無意識に言葉が漏れる。なぜ、こんなものが空に? 軍艦が空を飛ぶなど、どの国の軍事体系にも存在しない。そして、その異様な存在感から、彼が感じたのは、またしてもあの時と同じ、本能的な恐怖だった。
「勘弁してくれ……」
拓郎は心の中で泣き叫んだ。最近、異常なほど撮影会が頻繁に行われている。神々の間でアニメが人気になるのは結構なことだ。だが、それを現実に再現するのは本当にやめてほしい。
しかも、今回は軍艦。彼の軍事オタクとしての知識が、最悪のシナリオを想像させる。
その艦首に刻まれた、見慣れたエンブレムと文字。拓郎は呆然としたまま、その名を目にした。
それは、まさしく宇宙戦艦大和だった。