4話:教室の光景
重い足取りで教室のドアをくぐった拓郎は、自分の席へと向かいながら、ごく自然にその人物に目を向けた。教室の窓際、朝日に照らされた席で、長い白髪を揺らしながら一冊の本を読んでいる少女――ミレイ・フレスター。
普段と変わらぬ、いや、普段よりもさらに輝いて見える彼女の姿に、拓郎の心臓は小さく跳ねた。今朝、命を救われたばかりだというのに、彼の頭の中は、先ほどまで彼を救った九尾の狐の少女と、目の前の生徒会長でいっぱいだった。
噂は知っていた。彼女が神と人のハーフで、どこか遠い国から来た留学生だということ。そして、その並外れた美しさと聡明さで、あっという間に生徒会長の座に上り詰めたということも。
拓郎にとっては、自分とは住む世界が違う、高嶺の花のお嬢様だった。
拓郎は自分の席に着き、机に頬杖をついた。
(神の力……あれは、本当に科学的に説明できないものなのか?)
彼の軍事オタクとしての好奇心が、この時、初めて具体的に「神の力」へと向けられた。これまでは「ありえない現象」として興味の対象外だったものが、今や彼の目の前で現実となり、彼の命を救った。
そして、その力の使い手は、あの少女なのだ。
拓郎は、ちらりとミレイに視線を送った。彼女は相変わらず、涼しげな顔で本を読んでいる。
彼の平凡な日常は、完全にひっくり返った。そして、彼の危うい好奇心は、憧れの対象でもあるクラスメートの、真の正体へと引き寄せられていく。
ミレイ・フレスター