はちゃめちゃ一家の日常 (16)
「忘れ去られた概念の神々」──拓郎の解析結果は、神・日本国に新たな脅威の存在を突きつけた。彼らは、自らの存在を「再定義」することで、再びこの世界に現れようとしていたのだ。四葉は即座に全国の神装部隊に命じ、変質した神々の「概念再定義」を阻止するよう指示を出す。結衣と四葉は、ヘリで次々と戦場と化した街を飛び回り、変質させられた神々を「概念逆転」で元に戻していった。
「結衣、あの『芸術の神』だ! 街を『前衛芸術』の概念へと変換しておるぞ!」
四葉の指示に従い、結衣は渋谷のスクランブル交差点で、巨大なオブジェと化した「芸術の神」に照準を合わせた。
ドォォォン!!
結衣の光線がヒットすると、「芸術の神」は元の美しい姿に戻り、周囲の奇妙なオブジェも、渋谷の雑踏へと戻っていった。しかし、この戦いは終わらない。次から次へと現れる変質した神々、そして、その背後にいる「顔のない神々」の存在。
結衣の体力は限界に近づいていた。何度も「幻想武装」を発動したことで、彼女の身体は鉛のように重く、白とオレンジの混じったロングヘアーは汗で顔に張り付いていた。
「ママ……もう、限界かも……」
結衣が力なく呟くと、四葉は結衣の肩にそっと手を置いた。
「よくやった、結衣。だが、この戦いはワラワたちだけでは終わらぬ。全ての神、そして人間が、自らの『定義』を取り戻さねばならぬ」
その時、通信機から拓郎の焦った声が響いた。
「四葉様! 結衣! 大変です! 『顔のない神々』が、神・日本国の中心、皇居へと向かっています!」
皇居──それは、神々にとっての聖域であり、神・日本国の象徴だ。そこが狙われるということは、彼らがこの国の根幹そのものを破壊しようとしていることを意味していた。
「まさか……そこまでやるか!」
四葉の顔に、明確な怒りの色が浮かんだ。
「拓郎、状況を伝えろ! 『顔のない神々』の総数は!?」
「現在確認されているだけで五柱! 全てが、かつて信仰を失い、消滅したとされていた最古参の神々です! 彼らは、自らを『再定義』し、新たな『概念』を司ろうとしている!」
拓郎の報告に、四葉は厳しい表情で頷いた。五柱もの最古参の神々が同時に皇居を襲う。それは、神装部隊の総力をもってしても、防ぎきれるかどうか分からない、絶望的な状況だった。
「結衣よ。これが、この戦いの最終局面となる。ワラワと共に、皇居へ向かうぞ!」
四葉は、結衣の瞳を真っ直ぐに見つめた。結衣は、身体の疲労を感じながらも、その瞳に宿る決意を強く感じ取った。
ヘリが皇居上空に差し掛かると、そこは既に地獄絵図と化していた。五柱の「顔のない神々」が、それぞれ異なる「概念」を周囲にまき散らし、皇居の建物や庭園を歪ませていく。神装部隊の隊員たちが必死に防衛ラインを築こうとするが、彼らの攻撃は「概念」を操る神々にはほとんど効果がない。
「あれは、『歴史』を『忘却』へと再定義している神! 古い建造物が次々に消えていく!」
「あちらは、『生命』を『無機物』へと再定義している! 庭の木々が石へと変わり始めています!」
隊員たちの悲鳴が響く中、結衣は震える手でハンドガンを握りしめた。彼女の能力は、確かに「概念」に干渉できる。しかし、五柱もの最古参の神々を相手に、果たしてどこまで通用するのか。
その時、四葉が結衣の前に立ち、大きく息を吸い込んだ。彼女の全身から、眩いばかりの赤いオーラが噴き出した。それは、東京湾での戦いで見せた、あの圧倒的な神力だった。
「拓郎よ! ワラワが時間を稼ぐ! その間に、結衣に奴らの『定義』の弱点を伝えよ!」
四葉はそう叫ぶと、五柱の「顔のない神々」へと、単身で飛び込んでいった。神力が渦を巻き、大地が揺れる。四葉の放つ一撃は、変質した神々の『概念』を一時的に吹き飛ばすほどの威力を持っていた。
しかし、五柱の「顔のない神々」は、即座に態勢を立て直し、四葉めがけて同時に「概念」を放ってきた。四葉の赤いオーラが、五つの異なる「概念」の波に飲み込まれていく。
「ママ!」
結衣は思わず叫んだ。四葉の圧倒的な力が、拮抗している。
「結衣! 聞け! 奴らは『忘れ去られた概念の神々』だ! 彼らの最大の弱点は、『存在の証明』にある!」
拓郎の声が、通信機から響いた。
「存在の証明……?」
「そうだ! 彼らは、人々に忘れ去られたことで力を失った! だからこそ、自らを『再定義』し、新たな『概念』を司ることで存在を証明しようとしているんだ! 結衣の『概念逆転』は、彼らの与えられた『新たな定義』を本来の『忘れ去られた概念』に戻す。だが、それでは、彼らは再び消滅するだけだ!」
拓郎の言葉に、結衣はハッとした。
「じゃあ、どうすればいいの!?」
「結衣の『幻想武装』には、もう一つの可能性がある! それは、『概念の再構築』だ! 『忘れ去られた概念の神々』が、再び人々から『信仰』を得られるように、彼らの『定義』を、現代社会に適合する形で『再構築』するんだ!」
拓郎の提案は、あまりにも途方もないものだった。神の概念を、人間である結衣が書き換える?
しかし、結衣の瞳には、迷いはなかった。彼女の目の前では、四葉が五柱の「顔のない神々」と激戦を繰り広げ、限界を迎えようとしていた。
「やってやる……! ママを、そしてこの世界を救う!」
結衣は、自身の「幻想武装」を強く握りしめた。彼女の身体から、かつてないほどの白とオレンジの光が放たれる。その光は、彼女の決意に呼応するかのように、さらに輝きを増していった。




