はちゃめちゃ一家の日常 (14)
東京タワーでの一件以来、結衣の生活はさらに慌ただしくなった。放課後の訓練はより実践的になり、四葉は結衣の「概念分解」能力の限界を探ることに執心していた。拓郎もまた、結衣の能力を基にした新たな「幻想兵器」の開発に没頭し、寝る間も惜しんで研究室にこもる日々が続いた。
「結衣、この前の『無意味』の概念を分解した時の感覚を思い出せ! その時、お前の意識はどのように変化したのだ!?」
四葉は、結衣に神力を込めさせた訓練用のダミーを前に、厳しく問い詰める。結衣は汗を拭いながら答えた。
「ええと……なんだか、対象が『存在』としてあるのに、その『意味』だけが剥がれていくような……」
「なるほど! その感覚こそが、概念そのものに干渉している証拠。お前は、この世界を構成する『定義』を、一時的に無効化できるのだ!」
四葉は興奮気味に頷いた。その隣で拓郎は、すでに何か新たな理論を閃いたのか、研究ノートに猛烈な勢いで書き込みを始めていた。
「これはまさに、量子レベルでの存在の再定義! 神の力と物理法則の融合点だ!」
結衣は、両親の熱意に半ば呆れながらも、自分の能力が本当に「世界」に影響を与え得るものだと知り、漠然とした不安を覚えた。同時に、東京タワーの一件以来、自身の身体に微細な変化が起きていることに気づき始めていた。それは、疲労とは異なる、身体の内側から湧き上がるような、奇妙な感覚だった。
そんなある日の午後、治安管理局本部から緊急の連絡が入った。
「至急、四葉様、拓郎様、そして結衣様にお集まりください! 全国各地で、新たな『顔のない神々』が同時に複数出現! 今度は、特定の概念を破壊するのではなく、『神々の存在そのものを書き換える』現象が発生しています!」
対策室に集まった彼らの前に、モニターには衝撃的な映像が映し出されていた。それは、著名な学問の神が、突然、その姿を歪ませ、まるで別のアニメキャラクターのように変化していく様子だった。その神が司る「学問」の概念もまた、それに伴って奇妙なものへと変質していく。
「馬鹿な……! これは、単なる『定義の破壊』ではない……。まさか、『再定義』か!?」
拓郎が絶句した。
「神々の存在そのものを書き換えるだと……!? 我々の知る神が、完全に別の存在へと変質させられているというのか!」
四葉の表情には、かつてないほどの怒りが浮かんでいた。これは、神・日本国の根幹を揺るがす、最終局面の始まりを告げるものだった。
「報告! 変質した神は、以前とは異なる力を行使し始めました! 我々の認識と大きくズレており、対応が困難です!」
「さらに、各地で変質した神々同士が、まるで勢力争いをするかのように衝突しています! 街が、戦場と化しています!」
次々と入る報告に、幹部たちは頭を抱えた。もはや、これまでの対処法では通用しない。
四葉は、結衣の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「結衣よ。お前の能力が、この事態の鍵となる。奴らの『再定義』を、お前の『概念分解』で、『無効化』するのだ!」
結衣はごくりと唾を飲み込んだ。最古参の神の消滅とは比べ物にならない、前代未聞の危機だ。しかし、彼女の内に宿る神の血と、父から受け継いだ知恵が、静かに燃え上がっていた。
「……はい!」
結衣は、しっかりと頷いた。
神と人、そして概念が入り乱れる壮大な戦いが、今、幕を開けようとしていた。




