はちゃめちゃ一家の日常 (12)
治安管理局本部の対策室は、混乱の極みにあった。各地から寄せられる「顔のない神々」の報告は、どれも常識を覆すものばかり。結衣は、その状況に圧倒されながらも、自分の「幻想武装」がこの事態を解決する鍵となるかもしれないという、漠然とした責任感を感じていた。
「報告! 練馬区で出現した『顔のない神』が、周囲の人間を『無関心』の概念へと変換しています! 感情が希薄になり、一切の行動を停止する現象が確認されています!」
「港区では、出現した神が、高層ビル群を『虚無』の概念へと変換! 物理的に存在しながら、あらゆる観測から逃れる状態です!」
次々と入る報告に、幹部たちの顔は絶望に染まっていく。四葉は、眉間に深いしわを刻み、腕組みをしたまま沈黙していた。拓郎は、ホワイトボードに複雑な数式を書きなぐりながら、必死に解決策を探っている。
「『概念変換』……『定義の破壊』……。これは、我々の知る神の力とは、根本的に異なる。まるで、世界の根幹を書き換えようとしているかのようだ……」
拓郎が呟く。その言葉に、結衣はハッと顔を上げた。
(世界の根幹を書き換える……? それって、まるで……)
結衣の脳裏に、あの写真に写っていた「顔のない神々」の姿が蘇る。そして、夢の中で聞こえた声。
「ワタシハ、アナタヲマッテイタ……」
その声が、まるで結衣の能力を誘発するかのように、頭の中で響き渡る。
「パパ、ママ! 私、何か思い出したかもしれない……!」
結衣が叫ぶと、拓郎と四葉の視線が、一斉に彼女に集まった。
「夢の中で……あの写真に写っていた神様が、私に話しかけてきたんです。『ワタシハ、アナタヲマッテイタ』って……」
結衣の言葉に、拓郎は目を見開き、四葉の表情には、明確な驚きが浮かんだ。
「待っていた、だと? まさか、この事態は、結衣の能力発現を誘発するために起こされたというのか!?」
拓郎が興奮気味に言うと、四葉は静かに首を振った。
「いや、違う。この規模の現象を、一人の人間の能力発現のためだけに起こすなど、効率が悪すぎる。それに、ワラワの知る限り、そのような術は存在しない」
四葉はそう言うと、結衣の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「結衣よ。その夢の記憶は、お前の能力と、この『顔のない神々』の間に、何らかの繋がりがあることを示唆しておる。お前は、彼らの『定義の破壊』を止めることができるかもしれぬ」
四葉の言葉に、結衣はごくりと唾を飲み込んだ。自分に、そんな大それたことができるのだろうか。
その時、対策室の大型モニターに、新たな映像が映し出された。それは、東京タワーの周辺で出現した、ひときわ巨大な「顔のない神」の姿だった。その神は、周囲の空間を歪ませ、東京タワーそのものを、ゆっくりと、しかし確実に「無意味」の概念へと変換しようとしていた。
「報告! 東京タワー周辺の空間が歪曲しています! このままでは、東京のシンボルが……!」
隊員の悲痛な叫びが響き渡る。四葉は、その映像を凝視し、決断を下した。
「全隊員に告ぐ! 東京タワーへ急行せよ! 結衣、お前も来るのだ。拓郎、お前は引き続き、奴らの行動原理を解析せよ!」
四葉の命令に、神装部隊は一斉に動き出した。結衣は、四葉と共にヘリコプターに乗り込んだ。眼下に広がる東京の街は、既に混乱の渦中にあった。
ヘリコプターが東京タワーに近づくにつれて、結衣は、あの「顔のない神」から発せられる、異様な波動を感じ取った。それは、まるで世界の「意味」を吸い取っていくかのような、空虚な感覚だった。
(私が……止めなきゃ……!)
結衣は、自身の「幻想武装」を握りしめた。その銃は、彼女の決意に呼応するかのように、淡く輝き始めた。




