はちゃめちゃ一家の日常 (10)
最古参の神の消滅──その重い事態は、結衣の日常に、新たな警戒と緊張をもたらした。学校では相変わらず普通の女子高生として過ごしていたが、放課後は厳重に警護されながら治安管理局の秘密施設へと向かう日々。そこで待っているのは、四葉による「幻想武装」の応用実験と、拓郎による「分解エネルギー」の理論解析だった。
「結衣、今度はこの『神の結界石』を分解してみてくれ!」
拓郎は、神々が儀式で使うという、手のひらサイズの輝く石を差し出した。結衣が銃を構えて引き金を引くと、石はパリンという音と共に、砂のように崩れ去った。
「す、すごい! まさに理論通りだ! 結衣、次はもっと大きいものを……!」
拓郎は目を輝かせ、次々と実験対象を提示する。彼の傍らでは、四葉が腕を組み、冷ややかな視線で結衣の能力発現を見守っていた。
「拓郎、あまり無茶をさせるな。結衣の精神的な負担も考慮せよ」
四葉が釘を刺すが、拓郎の耳には届いていないようだった。結衣は、そんな両親の間に挟まれながら、自身の能力がこの恐ろしい事件にどう関わっているのか、漠然とした不安を抱え続けていた。
そんなある日、結衣は拓郎のオフィスで、事件現場で回収されたという、奇妙な写真を見つけた。それは、最古参の神が消滅した場所で、かろうじて残されたと思しき、一枚の古い写真だった。
写真には、ボロボロになった古いアルバムの切れ端のような背景と、そこに写る、まるで現代のアニメキャラクターのような姿をした二柱の神が写っていた。しかし、その顔は、まるで故意に塗りつぶされたかのように判別できなかった。
「パパ、これ、何?」
結衣が尋ねると、拓郎は顔色を変えて写真を取り上げた。
「これは……現場から発見された唯一の手がかりだ。だが、四葉様も原因不明と言っておられた」
拓郎は首を傾げるが、結衣の直感は何かを訴えかけていた。この写真に写る神々は、ただの神々ではない。そして、その消された顔には、何か重要な意味があるような気がした。
その夜、結衣は、妙な胸騒ぎを感じながら眠りについた。すると、夢の中に、あの写真に写っていた二柱の神が現れた。彼らは、顔を判別できないほどに霞んでいたが、その口元だけは、はっきりと見えた。
「ワタシハ、アナタヲマッテイタ……」
不気味な声が、夢の中に響き渡る。結衣は、恐怖に目を見開いた。
翌朝。結衣は目覚めると、夢の内容を思い出そうとしたが、断片的な記憶しか残っていなかった。しかし、その日の朝食の席で、拓郎が突然、興奮した声で叫んだ。
「そうか! わかったぞ、四葉様! あの消滅事件は、ただの分解じゃない! あれは、『神隠し』だ!」
四葉は、味噌汁を飲む手を止め、拓郎に視線を向けた。
「神隠しだと? それは、神が力を失い、人の世から姿を消す現象ではないのか? 自らの意思で消滅するなど……」
拓郎は首を振った。
「いいえ! 確かに神隠しは、そう認識されてきました。しかし、僕の研究によれば、ごく稀に、特定の条件が揃った時、神が意図的に自らの存在を『隠蔽』する術が存在する可能性があります。その際に発生するエネルギー反応が、結衣の『幻想武装』の分解エネルギーと酷似しているんです!」
拓郎の言葉に、結衣の脳裏に、昨夜の夢とあの写真がフラッシュバックした。
『ワタシハ、アナタヲマッテイタ……』
そして、その写真に写っていた、顔のない二柱の神。
「パパ、あの写真の神様って……」
結衣が言いかけたその時、インターホンが鳴った。モニターを確認すると、そこには、数日前から見覚えのある、あの神装部隊の田中隊員が立っていた。しかし、彼の顔は、なぜか蒼白に染まっていた。
「吉本様! 大変です! 神・日本国の全ての神社の石像や神像が、一晩のうちに跡形もなく消滅しました! そして、各地で、謎の『顔のない神々』が出現し、人々に語りかけているという報告が……!」
田中の報告に、拓郎と四葉、そして結衣の顔から、一斉に血の気が引いた。
最古参の神の消滅は、始まりに過ぎなかった。神・日本国は、今、かつてない規模の危機に直面していた。そして、その中心には、結衣の「幻想武装」と、謎の「顔のない神々」が存在する──。




