はちゃめちゃ一家の日常 (8)
結衣の「幻想武装」の特性が明らかになったことで、吉本家の日常はさらに加速した。拓郎は娘の能力に目を輝かせ、日夜研究に没頭するようになった。彼のオフィスには、結衣の「幻想武装」の理論モデル図や、応用兵器のスケッチが所狭しと並べられている。
「なるほど……結衣の能力は、既存の神力と異なり、分解と再構築のプロセスを介することで、特定の物質の結合を破壊し、あるいは新たな形として具現化させる……これはまさに、現代物理学と神道のハイブリッドだ!」
拓郎は、徹夜続きで隈を作りながらも、嬉々として四葉に研究成果を報告していた。彼の言葉は専門的すぎて、四葉には半分も理解できていないようだったが、彼女は拓郎が楽しそうにしているのを見ると、満足げに頷いていた。
一方、結衣の生活は、両親の「研究」によって大きく変わった。放課後は、学校のグラウンドや、治安管理局が提供する秘密訓練施設で、自身の能力を試す日々が始まった。四葉が構想した「実戦形式能力向上訓練」と称されるそれは、ほとんどが四葉本人を相手にしたものだった。
「ワラワに当たるまで、帰さんぞ、結衣!」
九尾の狐の姿で訓練場を縦横無尽に飛び回る四葉に、結衣は光の弾を連射する。四葉は、結衣の放つ弾を軽々と避け、時には神力で弾き飛ばす。
「ママ! 手加減してよ! もう弾切れだよ!」
「たわけ! 限界を超えろ! そこにあるだろう、お前の新たな力が!」
四葉は容赦しない。結衣は必死に息を整え、再びハンドガンを具現化させようと試みるが、なかなかうまくいかない。まだ、自分の能力を完全にコントロールすることはできなかった。
そんな訓練の日々を送る中、結衣は新たな懸念を抱くようになった。それは、神装部隊の人間関係だ。拓郎が「ブレーン」として介入し始めてから、部隊内では神と人間の間の軋轢が目立つようになっていた。特に、神々の中には、人間である拓郎の指示を快く思わない者もいる。
「人間の作った玩具など、所詮その程度だ」
訓練中、結衣の具現化が失敗するたびに、遠巻きに見ていた神の隊員から嘲笑が聞こえることもあった。結衣は、そんな言葉を聞き流すよう努めていたが、胸の奥には常に不満が鬱積していた。
(パパは頑張ってるのに……! 神様たちだって、あんまり自由すぎるところがあるんだから……)
ある日、結衣が訓練を終えて帰宅すると、家の中が異様に静かだった。いつもなら、四葉が夕食の準備で賑やかにしているか、拓郎がリビングで神に関する文献を読み漁っているはずなのに。
結衣がリビングのドアを開けると、そこには、珍しく神妙な顔をした拓郎と、不機嫌そうな四葉が座っていた。彼らの前には、どこか厳粛な雰囲気の漂う神装部隊の隊員が一人、直立不動で立っている。
隊員は、結衣の姿を見ると、居住まいを正し、低い声で告げた。
「吉本結衣様。至急、四葉様と拓郎様と共に、治安管理局本部へお越しください。重大な事態が発生しました」
その言葉に、結衣はごくりと唾を飲み込んだ。彼女の非凡な日常は、また新たな局面を迎えるようだった。




