はちゃめちゃ一家の日常 (2)
「まったく……。あ、そうだ、今日、遠足で向かう先の神社、なんか変な噂があるみたいだよ」
朝食を摂りながら、結衣はスマホを片手に口にした。四葉が作った完璧な卵焼きを頬張りながら、拓郎はげっそりとした顔で新聞を読んでいる。
「変な噂だと? どこの神社だ?」
拓郎が反応する。彼の軍事オタクとしての好奇心は、身体的な疲弊に勝るらしい。
「江戸川区の『伏見稲荷神社』。最近、お稲荷さんの数が尋常じゃなく増えてて、夜になると変な音がするとか、通りかかった人が狐に化かされたとか……。あと、稲荷寿司のお供え物が一瞬で消えるらしいよ」
結衣は友人のSNS情報から得た、半信半疑の噂を話した。拓郎は新聞を持つ手が止まり、その顔に焦りの色が浮かぶ。
「伏見稲荷だと!? そんな、あの神社は昔から狐の神様が多いことで有名だが、最近は特異点として監視対象になっていたはず……。まさか、そこで何か問題が起きているのか!?」
拓郎は立ち上がり、慌ててスマホを取り出した。彼の目の奥には、久しぶりに軍事オタクの輝きが戻っている。
「どうしたの、パパ。そんなに慌てて」
結衣は首を傾げた。彼女にとって、神々の起こす奇妙な事件は、もはや日常の一部でしかなかった。
その時、四葉が静かに口を開いた。彼女はエプロンをつけたまま、完璧な動作で拓郎の茶碗に味噌汁を注ぐ。
「……先日、そこから怪しい魔力の波動を感知しておった。拓郎、お前の出番だぞ」
四葉の言葉に、拓郎はハッと顔を上げた。その顔は恐怖に引きつっていた。
「わ、私ですか!? また精気を吸われるような任務は勘弁してください! お、お腹の子供のために、ここは慎重に……」
拓郎が必死に抵抗するが、四葉は涼しい顔で言い放った。
「馬鹿者。お前の『知識の注入』は、既に別の場所で施しておる。今回は、お前がいつも望む『神の力と軍事知識の融合』の機会を与えてやる」
四葉はそう言うと、拓郎に意味深な笑みを向けた。拓郎は、その言葉に顔色を変え、一瞬で精気を吸い取られたかのように、再びぐったりと座り込んだ。
「あ、ありがとうございまぁす……」
蚊の鳴くような声で礼を言う拓郎に、四葉は満足げに頷いた。
「結衣よ。お前は今日、その遠足で、ワラワの目を補ってこい。もし、何か異常事態に遭遇したら、すぐにワラワに連絡するのだ」
四葉は、結衣の瞳を真っ直ぐに見つめた。その目には、盟主としての厳格さが宿っていた。
「え、私が?」
結衣は、まさか自分が任務に巻き込まれるとは夢にも思わず、目を丸くした。
「うむ。お前は、ワラワと拓郎の子。その血には、神の力と人間の知恵が宿っておる。何より、最近のワラワは、主婦業と治安維持で忙しいのだ。それに……」
四葉は、ちらりと拓郎に視線を送った。
「お前の父は、もはや戦力にならぬ」
拓郎は、四葉の容赦ない言葉に、床に崩れ落ちた。結衣は、そんな両親の姿にため息をつきつつも、言い知れぬ予感に胸騒ぎを覚えていた。
遠足は、まさに波乱の幕開けとなりそうだった。
吉本四葉




