5話
『シャルテ。恐れることはない。神の力は、ただ破壊するだけのものではない。それは、流れであり、恵みであり、新しいものを生み出すためのものなのだ。』
父の言葉が響く。母が私にそっと手を重ねてくれた。
『この世界には、まだ私たちが知らない「流れ」がある。それを理解し、受け入れること。それが、シャルテ、お前がこの新しい世界で果たすべき使命なのだよ。』
そうだ。神の力は、単なるエネルギーじゃない。それは、『概念』そのもの。そして、私は『流れ』を司る稲荷の神使。電気の流れも、空気の流れも、人の心の流れも……。
シャルテの赤い瞳に、諦めではない、確かな閃きが宿った。
「ユウキ! 聞こえる!? サーバーに流れている高圧電流……それを、私の『神気』で、逆に『制御』できないかしら!? 電子ロックも、電力の『流れ』を操れば、解除できるはずよ!」
かすれた声で、シャルテは叫んだ。彼女の身体は、ほとんど神気を失い、震えている。ユウキはハッとした。彼は、シャルテの言葉を信じ、タブレットを操作し始める。
「シャルテ様の神気で……電気を制御!? そんなこと、可能なのか!? でも、それなら……!」
ユウキの顔に、希望の光が差した。科学者としての彼の知識が、シャルテの言葉と結びつき、新たな可能性を示唆していた。
「試すしかない! 私は、稲荷の神使! 五穀豊穣、商売繁盛、そして『豊かさ』を司る! その力は、単なる生命力だけじゃない! 『流れ』そのものを操れるはず! 電気の流れも、きっと……!」
シャルテは、最後の力を振り絞り、地面に手をついた。わずかに残った神気を、彼女は足元に這う無数のケーブルに流し込む。ビリビリ、と微かな電流がシャルテの指先から伝わった。それは、失われた神気とは異なる、別の感覚だった。
「馬鹿な! 貴様の神気など、すでに私の装具で大半を吸収したはず! もう何も残っていないはずだ!」
黒木は焦りの色を見せた。彼の顔には、予期せぬ事態への苛立ちが浮かんでいる。
「確かに、私の『力』は奪われた。でもね、黒木! 神の力は、ただの『エネルギー』じゃない! それは、『概念』そのもの! そして、私は『流れ』を司る神使! 今、この新宿の電気が、私の『流れ』に変わる!」
シャルテの身体から、奪われたはずの神気とは異なる、しかし確かに神聖な輝きが放たれた。それは、メインサーバーから放出されていた高圧電流と共鳴し、施設全体を包み込む。ユウキのタブレットの数値が、驚異的な勢いで上昇した。それは、暴走ではなく、制御された、莫大なエネルギーの数値だった。
「馬鹿な……電力が、暴走ではなく、増幅されている……!? しかも、完全にコントロールされているだと!?」
黒木は信じられないといった顔で叫んだ。彼の腕の装具が、微かに警告音を発している。




