はちゃめちゃ一家の日常 (1)
「はぁ……はぁ……」
朝の光が差し込む部屋で、吉本結衣はベッドの上で、完全に精気を吸い尽くされ、干からびたように横たわる父親の拓郎を眺めていた。その隣には、どこか満足げな表情で何かを呟き、バスルームへと向かう母・四葉の姿。結衣は毎朝、この光景を目にしていた。
「パパ、またママに絞られたの?」
結衣が問いかけると、拓郎は蚊の鳴くような声で答えた。
「も、もう無理……出ない……きつい……ゆ、結衣……助けてくれ……」
拓郎の悲痛な叫びに、結衣は慣れたようにため息をついた。彼女の父は、もう何年もこの調子だ。聞けば、母が「子作り」という言葉を誤解し、毎日拓郎に「知識の注入」を施しているのだという。もっとも、その知識は結衣には全く理解できない、神話や軍事理論が入り混じった奇妙なものらしいが。
結衣は今年で16歳。神と人間のハーフだが、見た目はごく普通の女子高生だ。白とオレンジの混じったロングヘアーが特徴で、運動神経抜群。だが、彼女の日常は、決して「普通」ではなかった。
まず、同居人である母が、34歳で主婦であるにも関わらず、神・日本国の盟主、そして治安管理局局長を務める九尾の狐である四葉様。そして父は、元々ただの軍事オタクだったはずが、今や神装部隊の事実上のブレーンとして、神々の力を応用した兵器開発に没頭している。
「パパ、今日はお兄ちゃんの遠足の日だから、ちゃんとお弁当作った?」
結衣が確認すると、拓郎はか細い声で答えた。
「作っ……た……はず……だ……」
その言葉に、結衣は再びため息をついた。お兄ちゃん、とは、結衣の弟で、神と人間のハーフの子供たちの中でも特にやんちゃで、よくトラブルを起こす存在だ。彼の世話は、いつも結衣の役目だった。
「まったく……。あ、そうだ、今日、兄が遠足で向かう先の神社、なんか変な噂があるみたいだよ」
結衣は、学校の友人から聞いたという噂を口にした。拓郎は、その言葉にピクリと反応したが、すぐにまた精気を失った顔に戻ってしまった。
「……ま、まさか……また、神々の問題か……」
拓郎の呟きに、結衣は首を傾げた。彼女にとって、神々の起こす奇妙な事件は、もはや日常の一部でしかなかった。
「それよりパパ、早く起きてよ。ママが朝ごはん作ってるんでしょ? 今日は、卵焼きを多めにって言ってたよ」
結衣は、ベッドから起き上がると、拓郎を無理やり引きずり起こした。このはちゃめちゃな家族の中で、結衣は誰よりも現実主義で、誰よりも家族の世話を焼いている、しっかり者の娘だった。
しかし、彼女の運命もまた、両親と同じように「非凡」なものとなる予感を、この穏やかな朝は、確かに含んでいた。
吉本結衣




