17話:無力な絶叫と、拓郎の咆哮
拓郎の視界には、地獄のような光景が広がっていた。悲鳴を上げる女性たち。その水着は無残にも剥ぎ取られ、ねっとりと絡め取られた触手に無防備な体が晒されている。そして、その中には、目を疑うべき光景が――あの、白い水着姿の四葉さんもまた、触手に捕らえられ、身動きが取れない状態だった。
(化物、いや、神様かぁ……呆れ)
拓郎は、もはや怒りすら通り越して呆れたが、状況の異様さに背筋が凍る。彼は反射的に、触手と格闘する四葉へと駆け寄った。
「四葉さーん! 魔法を、魔法を使ってください!」
拓郎は必死に叫んだ。彼女の圧倒的な幻想魔法があれば、こんな触手など一瞬で粉砕できるはずだ。
しかし、四葉の返答は、拓郎の絶望を深くするだけだった。
「む、無理じゃ……。力が入らぬ……」
苦しげな声で、四葉は喘いだ。その顔は羞恥と焦りで紅潮し、いつもの冷静さはどこにもない。
「何言ってるんですか! 早く、魔法で……!」
拓郎がさらに詰め寄ろうとした、その時。背後から、冷ややかな男の声がした。それは、つい先ほど「今日は、いい絵が撮れる予感ですよ、隊長!」と叫んでいた男だった。
「無駄ですよ、少年。あのタコの神は、魔力を吸い取る吸盤を持ってる。いくら神の国の盟主といえど、あ〜んな破廉恥な姿で、無防備に肌を晒していては、非力な人間も同じ」
拓郎は、その言葉にカチンときた。自分はともかく、神の国の盟主である四葉を「非力な人間」と比較するとは。何よりも、「破廉恥な姿」という言葉が、拓郎の逆鱗に触れた。
「非力な人間だと!? 人を、いや、四葉を舐めるな! 俺の嫁だぞぉ!!」
拓郎が叫んだその瞬間、触手に絡め取られていた四葉の体から、眩いばかりの赤いオーラが放たれた。それは、怒りか、羞恥か、あるいは拓郎の言葉への反応か。タコの神は、その赤いオーラに一瞬たじろいだかのように、触手による拘束を緩めた。四葉の体が、重力に従ってふわりと落下する。
しかし、すぐにタコの神は態勢を立て直し、再び触手を伸ばして四葉の足を絡め取り、引きずり上げる。
「やめんか、馬鹿者が!」
四葉の苦悶の叫びが響く。
男は、拓郎の叫びにも動じることなく、冷笑を浮かべていた。
「そのメギツネは前々からうっとおしい存在でしたからね。これはいい。公衆の面前で、恥辱の限りを尽くしてやりなさい!」
その言葉に呼応するかのように、タコの神の触手が、四葉の首や胸、そして股の間にねっとりと絡みつき、さらに深く食い込んでいく。
「いやぁ〜〜〜!!!!!」
四葉の悲鳴が、砂浜に響き渡った。
拓郎の理性のタガが外れた。彼の頭には、もはや軍事理論も、神の力も、何もなかった。ただ、目の前で辱められる四葉の姿だけがあった。
彼は男の元へ駆け寄り、躊躇なく、その顔面に渾身の一発を叩き込んだ。乾いた音が砂浜に響き渡る。男は、突然の衝撃に顔を歪ませ、数歩よろめいた。
「な、なんと無礼な子だ! 神に向かって何を……!」
男は、殴られた頬を押さえながら、怒りに震える声で叫んだ。しかし、拓郎は、その言葉を遮るように咆哮した。
「黙れ! この変態が! うちの嫁に何かあってみろ! お前を許さないからな!!」
拓郎は、男に背を向け、憎悪を込めた視線をタコの神へと向けた。彼の胸には、かつてないほどの激しい怒りが燃え盛っていた。もはや、非力な人間であるという自覚も、目の前の神が強大であるという恐怖も、全てが吹き飛んでいた。
彼は、タコの神へと真っ直ぐに駆け寄った。




