第10話:幕引き、そして新たな始まり
四葉が本来の姿に戻ったことで、港の倉庫は瞬く間に混乱に陥った。突如として現れた大人の女性、そしてそこから放たれる圧倒的な存在感に、千秋の手下たちは呆然と立ち尽くす。千秋と士道もまた、その変貌ぶりに目を見開いていた。
四葉は、もちろん手加減することを知っていた。今回の事件に、憎悪や悪意なんて感じられない。ただ、子供の歪んだ執着と、それに従う大人たちの浅慮が引き起こしたものだ。炎熱系魔法で全てを焼き払うような真似をする必要はない。
四葉は、軽く熱のオーラを展開させた。その熱は、周囲の金属製の器具や、倉庫の壁材をゆっくりと、しかし確実に溶かし始めた。じゅわ、という音と共に、煙が舞い上がり、異臭が倉庫内に充満する。
「な、何だこれは!?」 「溶けていくぞ!」
この異常事態に、現場はさらなる混乱に包まれた。煙が外へと漏れ出し、すぐに港湾部の治安管理局が騒ぎを察知し、サイレンを鳴らしながら到着した。
だけど、四葉のはからいで、事件はひっそりと幕を引いた。子供の姿になっていたこと、そして騒動の原因が複雑な家庭事情にあることを、四葉は治安管理局の担当者に巧みに説明した。もちろん、超常の力については伏せて。吉本家の影響力もあって、大事には至らなかった。千秋と士道は、今回の件について厳重な注意を受け、たくみを連れて引き上げていった。
事件後、たくみが四葉に歩み寄った。彼の瞳は、もはや恐怖に怯えるものじゃなく、驚きと、そして深い理解を湛えていた。
「四葉は……。四葉様は、四葉様だったんですね、神の国の盟主様?」
たくみの言葉に、四葉は小さく微笑んだ。 「そうじゃ。ちと、わけあって、子供の姿になっておった。騙すようなことになって、すまぬ。」
四葉の言葉に、たくみは深く頷いた。この日、二人の間には、単なる遊び仲間以上の、深い絆が生まれた。そして、この特別な出会いが、のちの四葉とたくみの新たな物語へと続いていくことになるのだった。




