第1話:飴玉の誘惑
吉本家の広大な屋敷の奥深く、普段はほとんど足を踏み入れられない古い蔵の整理を、四葉は一人で行っていた。長年積み重ねられた埃を払い、古びた道具や書物を運び出す作業は骨が折れるんだけど、時折見つかる珍しい品々に、四葉は小さな楽しみを見出していた。
その日、四葉は隅の方で、ひっそりと佇む小さなブリキ缶を見つけた。可愛らしい絵柄のその缶を開けると、中には色とりどりの飴玉がいくつか入っている。どれも懐かしい色と形をしていて、四葉は思わず一つ手に取って、ぺろりと舐めてみた。
その瞬間、不思議な感覚が四葉を包んだ。体が縮んでいくような、幼い頃に戻っていくような、奇妙な感覚。慌てて手鏡を取り出すと、そこに映っていたのは、見慣れた自分の顔じゃなくて、小学生くらいの子供の姿だった。
「えええええええええええええ!?」
驚愕した四葉の叫び声が、静かな蔵に響き渡った。
騒ぎを聞きつけた夫の拓朗が駆けつけ、四葉の姿を見て目を丸くした。事情を聞いた拓朗は、持ち前の知識を総動員して調べ始めた。古い文献を紐解き、薬品を分析した結果、あの飴玉には微量の特殊な成分が含まれていて、それが一時的に体を幼い頃の姿に戻してしまう効果があることが判明した。そして、厄介なことに、その効果は10日ほど持続するという。
「まあ、たまには子供に戻るのも悪くないかもしれませんよ?」 拓朗は苦笑しながら言ったけれど、子供の姿になった四葉が、家でじっとしているなんてできるはずもなかった。




