第21話:真実の開示、吉本家の変革
最終決闘が終わり、吉本家の特別訓練場には、重い静寂が訪れていた。勝利したクロネ、敗れた悠良。そして、全ての戦いを見守ったシロネとレン。彼らの表情には、激しい疲労と共に、戦いを通じて得た複雑な感情が交錯していた。
吉本家当主、拓郎は、この決闘が吉本家の歴史における転換点となることを理解していた。彼は、深く息を吸い込み、集まった吉本家の者たち、そして関係者たちに、決然とした声で告げた。
「これより、吉本家が長きにわたり秘匿してきた、初代当主あやのの真実、そして『忘却された家系』の存在を、全て開示する。」
その言葉は、訓練場に集まった全員に衝撃を与えた。吉本本家の者たちは、これまで口外することを禁じられてきた家系の暗部が、ついに白日の下に晒されることに、緊張と覚悟を滲ませた。
「吉本家幻想秘録」が、皆の前に広げられた。拓郎の指示のもと、宗介が、そしてみゆきが、交互にその内容を読み上げていく。
初代当主あやのが、かつて白髪の少女みゆきとして、いかにして理想郷を創り上げたか。そして、いかにして裏切られ、深淵の絶望に突き落とされたか。性交描写は伏せられつつも、彼女が受けた精神的な苦痛と尊厳の蹂躙が、その声から痛々しいほどに伝わってくる。
「……彼女は、その絶望の果てに、世界を『人形の世界』へと変貌させました……。」
みゆきの声が震える。人々の魂が人形に閉じ込められ、終わりのない輪廻転生を繰り返す悲劇。飢え、暴力、そして感情を失い、ただ生存するだけの虚構の世界が、古文書の記述から生々しく語られた。
そして、その「人形の世界」が再び戦争に巻き込まれた時、あやのの魂が「ゆう」として覚醒し、ユイやさくらといった純粋な存在との出会いを通じて、憎悪ではなく愛情と理解によって世界を解放した再生の物語が語られた。
「あやのは、自身の幻想魔法の力を深く恐れ、二度と悲劇を繰り返さないために、自らの血筋の一部を本家から隔離し、その存在を歴史から抹消しました。それが、悠良殿とレン殿の家系なのです。」
拓郎の言葉は、重く、深く響き渡った。
悠良とレンは、その全てを聞き終え、言葉を失っていた。長きにわたり自分たちが背負ってきた「忘れられた」という重荷。その理由が、初代当主あやのの深い苦悩と、未来への切なる願いに基づいていたことを知り、彼らの本家への恨みは、少しずつ和らいでいく。
複雑な感情が、彼らの心に渦巻いていた。憎しみだけではなかった。深い悲しみと、そして、祖先が背負った運命への共感。
シロネとクロネもまた、あやのの物語を通じて、自分たちの魔法の力、そして吉本家の歴史の重さを改めて理解する。彼らは、当主としての責任を強く自覚し、光と闇の魔法を真に融合させることの重要性を悟るのだった。
吉本家は、この日、過去の闇と向き合い、新たな一歩を踏み出した。それは、血の宿命に抗い、真実を認め、未来へと繋がる変革の始まりだった。




