14話:空飛ぶ臨時職員と、平凡な任務
神装部隊の臨時職員として採用された翌日から、拓郎の生活は激変した。
朝、学校へ向かう道中、ミレイは相変わらず拓郎の腕に絡みつき、周囲の好奇の視線を一身に浴びせる。そして放課後、生徒会長としての職務を終えると、彼女は拓郎を伴って、治安管理局の任務へと向かうのだ。
「行くぞ、拓郎。本日の任務は、神田明神周辺で発生した、恵比寿神による『鯛釣り大漁祭再現』の監視だ。近隣住民への被害が出ていないか確認する」
そう告げると、四葉は人目がない場所で、白とオレンジの毛並みの九尾の狐の姿へと変身する。そして、拓郎の腰に、どこからか現れた光のロープを巻き付け、そのまま空へと舞い上がった。
「ひぃっ!?」
拓郎は情けない悲鳴を上げた。ただでさえ、帰宅部で体力のない彼にとって、この学校と任務の二重生活は、肉体的にも精神的にも大きな負担だった。しかも、任務中は常に空の上。高所恐怖症ではないが、足元に広がる東京の街並みは、あまりにも現実感がなく、彼の感覚を麻痺させた。
(俺が想像してた任務と、なんか違う……)
彼の抱いていた「神装部隊」のイメージは、もっと銃やバズーカをぶっ放し、派手に活躍するものだった。神の力と現代兵器の融合。それが彼の夢だった。しかし、現実の任務は、空を飛びながら、四葉の活動記録として写真を撮ること。それだけだ。
「あの、四葉様……もっと、こう、派手な任務とかないんですか? 例えば、神の力を使った兵器の試験とか、戦術の検証とか……」
ある時、拓郎は意を決して四葉に尋ねてみた。すると、四葉は冷たい視線を拓郎に向け、呆れたように言った。
「民間人が、しかも未成年の学生が、そんなことできるわけないだろう! たわけが! 神の力は、お前が考えるような単純な玩具ではない。ましてや、兵器などと安易に口にするな」
その言葉に、拓郎はぐうの音も出なかった。確かに、彼女の言うことは正しい。しかし、彼の心には、拭い去れない不満が残った。このまま、自分は平凡な「記録係」として、神装部隊の隅っこで、この退屈な任務を続けるのだろうか。
(俺の野望は、こんなものじゃない……!)
空を飛びながら、拓郎は下界の街並みを眺めた。今日もどこかで、アニメに熱狂する神々が、奇妙な「再現ショー」を繰り広げているのだろう。そして、その中で、彼の知らない「神の力」が、無駄に消費されている。
拓郎の心は、焦燥感に駆られていた。このままではいけない。彼は、この「平凡な任務」の先に、自分の求める「非凡な何か」があることを信じていた。




