第11話:決闘への道、それぞれの覚悟
忘却された家系の出現、そして初代当主あやのの忌まわしい過去が明かされたことで、吉本家は大きく揺れ動いた。長きにわたる確執は、一触即発の事態を招きかねない。この状況を収拾するため、そして吉本家の真の継承者を決定するため、拓郎が提案した。
「吉本家古来の伝統に則り、次期当主は**『決闘』**によって選定する。これは、単なる力の勝負ではない。吉本家の魔法を継承する者としての覚悟と、資質を示すための、試練だ。」
その言葉に、吉本本家の大人たちは一様に頷いた。宗介、アルファ、深夜、四葉、みゆき、ベルーシャ。誰もが、若き世代に吉本家の未来を託す覚悟を決めていた。彼らは厳重な結界を張り、戦いの場に一切手を出さず、ただ見守ることを宣言した。
「私たちが、吉本家の正当な血筋であると証明してみせましょう。」
悠良は、静かに、しかし力強く言った。彼女の瞳には、忘却された家系の名誉を回復するという、強い決意が宿っていた。レンもまた、その背後で、黙って拳を握りしめていた。
次期当主の座をかけた決闘に備え、シロネ、クロネ、悠良、レンの四人は、それぞれの魔法と体術の限界をさらに引き上げるための、厳しい特訓に入った。
シロネは、自身の光魔法の深淵と向き合った。エル社事件での経験、そして「吉本家幻想秘録」で知ったあやのの悲劇。光が持つ「癒し」と「守護」の側面だけでなく、その奥に潜む「強さ」と「希望」を、いかに引き出すか。彼女は、日中の鍛錬だけでなく、夜ごと瞑想を重ね、己の光の源を探った。
クロネは、闇魔法の研鑽に没頭した。レンの体術を想定し、幻影の精度を高め、拘束魔法の範囲と威力を増強させた。だが、それだけでは足りない。彼女は、闇魔法が持つ「精神への干渉」という、最も危険で、しかし最も強力な側面に、あえて踏み込もうとしていた。それは、あやのの幻想魔法が持つ力の一端であり、かつて世界を「人形」に変えた禁忌の領域だ。ベルーシャは、その危険性を案じながらも、クロネの成長を見守った。
悠良は、光の創剣魔法の研ぎ澄ましに余念がなかった。空に無数の光の剣を召喚し、その軌道をより複雑に、より予測不能に操る訓練を繰り返す。彼女の創剣魔法は、本家から隔絶された環境で、独自の進化を遂げていた。その根底には、忘却された家系としての長きにわたる苦難と孤独が深く刻まれており、彼女は、その全てを決闘にぶつける覚悟だった。
レンは、吉本家の古い体術書を読み漁り、自身の身体能力を極限まで引き上げるべく、過酷な肉体訓練を課した。体術は、魔法が通用しない相手に対する究極の武器であり、彼はそれを体現しようとしていた。彼の動きは、ますます研ぎ澄まされ、まるで幻影のように見る者の目を欺くようになっていく。
シロネとクロネは、夜中に二人きりで語り合った。 「クロネ、私たち、勝てるかな……」 シロネが不安げに呟く。
「勝つさ。私たちには、光と闇がある。そして、互いを信じ合う絆がある。それが、私たちの最大の武器だ。」 クロネは、シロネの手を強く握り、その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。彼らは、これまでの経験、特にエル社事件を通じて得た教訓を胸に、互いの光と闇の魔法の連携を深めていった。
吉本家の血を引く四人の若者たちは、それぞれの覚悟を胸に、来るべき決闘の日に向けて、己の力を磨き上げていた。吉本家の未来は、彼らの手に委ねられることになる。




