第7話:双子の成長と不穏な兆候
エル社事件から数年の月日が流れた。
江戸川区清流が流れる河川敷の近くに建つ吉本本家は、以前にも増して活気に満ちていた。あの忌まわしい事件を経て、吉本家は、その閉鎖的な殻を破り、社会への貢献をより一層重視する方針へと転換していた。
シロネとクロネは、十代後半へと成長し、それぞれの魔法の力を深く理解し、使いこなせるようになっていた。シロネの光魔法は、以前にも増して穏やかでありながら力強く、癒しと守護の象徴となっていた。
一方、クロネの闇魔法は、ただの破壊にとどまらず、精神への干渉や、空間を操るなど、その深淵を覗かせ始めていた。二人の間には、互いへの深い信頼と、揺るぎない絆が流れている。彼らは、吉本家の次期当主候補として、その才覚を遺憾なく発揮し、周囲の期待を集めていた。
しかし、その吉本家内部では、当主の座を巡る静かなる緊張が高まり始めていた。
吉本みゆきは、長女として吉本家の血筋の純粋性を重んじるあまり、クロネの闇魔法、そしてシロネとクロネが持つ「狐の姿」への潜在的な危険性を強く懸念していた。
彼女は、吉本家の禁忌である「幻想魔法」の過去を知るがゆえに、双子の力を過剰に警戒していたのだ。かつての初代当主あやのの悲劇を繰り返させたくない一心で、彼女は伝統的な継承を強く主張していた。
対するは、新しい時代に合わせた変革を望む勢力。アルファ、深夜、宗介、拓郎といった面々は、シロネとクロネの持つ可能性を信じ、彼らこそが吉本家の未来を切り開く存在だと考えていた。
彼らは、血筋よりも資質を重視し、双子が持つ光と闇の力が、これからの世界に必要だと感じていた。
両者の間で、次期当主の選定を巡る意見の対立が、水面下で燻り続けていた。
そんな中、吉本家内で不可解な事件が連続して発生し始めた。
重要書類が紛失したり、研究データが改ざんされたり、結界の一部に不調が見られたり。いずれも、明確な被害は出ていないものの、内部犯行を示唆するような、巧妙な手口だった。
「どういうことだ?こんな初歩的なミスをするはずがない」 研究室でデータを調べていたアルファが、眉をひそめて呟いた。
「まるで、誰かが意図的に混乱を引き起こしているようですね」 宗介もまた、冷静な分析を加えていた。
シロネとクロネは、これらの事件が、当主争いを有利に進めようとする何者かの策略であると察知した。彼らは、吉本家の大人たちの力を借りつつも、自分たち独自の調査を開始することになる。吉本家の深奥で蠢く不穏な影が、今、ゆっくりとその姿を現し始めていた。




