13話:愛は盲目、臨時職員、爆誕
「重い……愛が重い……」
自宅のベッドで悶絶しながら、拓郎は必死に思考を巡らせた。ミレイ・フレスター。生徒会長。憧れの存在。そして、神の国の盟主である九尾の狐、四葉様。
その彼女が、なぜか自分に一方的に「求婚」されたと誤解し、まさかの「めおと」関係を公言している。しかも、その「愛」は、物理的に重い。腕を組まれ、肩に寄り添われ、四葉の体温と香りが常に隣にある。
だが、混乱の渦中で、拓郎の軍事オタクとしての冷静な頭脳が、ふと閃いた。
(待てよ……これは、好機なのでは?)
神の力を信じていなかった自分が、その圧倒的な現実を突きつけられた。そして、その力を操る「神の国の盟主」が、なぜか自分に夢中になっていると誤解している。この状況を、利用できないか?
彼の脳裏に、神装部隊の特集番組の映像が蘇る。神々の暴走を食い止め、秩序を維持する精鋭部隊。そこに、神の力と軍事知識を融合させる、という彼の野望を実現する道がある。
(そうだ! ミレイさんのこの「重い愛」を利用して、憧れの神装部隊に入れてもらおう!)
拓郎は、名案だとばかりにガバッと起き上がった。しかし、すぐに不安がよぎる。
(いや、待て。俺はまだ未成年の高校生だぞ? しかも、神の国の盟主様が、そんな危険な部隊に、素人の高校生を入れるはずがない……。いくら「愛は盲目」だとしても、さすがにそこは譲らないだろう)
一抹の不安を抱えながらも、拓郎は翌日、意を決してミレイにその思いをぶつけた。放課後、生徒会室。いつものように拓郎の腕に絡みつき、書類を捌くミレイに、彼は震える声で切り出した。
「あ、あの、ミレイさん……俺を、神装部隊に入れてください!」
ミレイは、ピタリと手を止め、拓郎の方に顔を向けた。その瞳は、普段の冷静さとは裏腹に、どこか期待に満ちた輝きを宿しているように見えた。拓郎は、やはり無理か、と諦めかけた。
「……ふむ」
ミレイは顎に手を当て、しばし思案するそぶりを見せた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「よし、分かった。吉本拓郎。お前を、神装部隊の臨時職員として採用しよう」
拓郎は、その言葉に、完全に呆気にとられた。
「え……? 臨時、職員……?」
彼は、まさか許可が下りるとは思っていなかった。しかも、臨時とはいえ、あの神装部隊に。拓郎の予想では、全力で拒否されるか、せいぜい「まずは学業に専念しなさい」と諭されるか、だと思っていたのに。
ミレイは、拓郎の驚きなど気にも留めず、満足げに頷いた。
「うむ。ワラワの『めおと』となる者が、ワラワの職務に興味を持つのは当然のこと。しかも、お前はあの鉄骨落下事件でも、冷静に状況を把握しようとしていた。その探求心は評価に値する」
彼女はそう言うと、拓郎の腕をさらに強く抱きしめた。
「だが、正規隊員はまだ早い。まずは臨時職員として、ワラワの傍で、この神・日本国の秩序維持の仕組みを学ぶが良い。そして、ワラワの愛を、日々感じ取るのだ!」
拓郎は、ミレイの言葉に、全身から力が抜けるのを感じた。彼女の言葉の端々に散りばめられた「めおと」「愛」といった単語。そして、彼の能力を評価しているようで、結局は自分の「愛」を押し付けているような発言。
(これが……愛は盲目、というやつか……)
拓郎は、目の前の現実が信じられなかった。彼の軍事オタクとしての野望は、思わぬ形で、そして、あまりにも予想外のルートで、実現への一歩を踏み出した。
だが、その代償として、彼は神の国の盟主からの、とてつもなく「重い愛」を受け止めるという、新たな「戦い」に巻き込まれることになったのだった。




