第6話:ゆうの覚醒と世界の再生
長い、深い夜が明けた。
舞台は、はるか時を超えた現代の日本。江戸川区、清流が流れる河川敷の近くに建つアパートの一室。そこで暮らす白髪に赤い瞳を持つ高校生、ゆうは、目覚めと共に奇妙な既視感に襲われていた。
「お兄ちゃん、今日も髪、雪みたいで綺麗だね!」
妹のユイは、無邪気な笑顔でゆうの白い髪を褒めた。その純粋な愛情が、ゆうの心を温かく包み込む。親友のさくらと交わす、他愛もない学園生活の会話も、彼にとってかけがえのないものだった。けんじや雪菜といった友人たちとの穏やかな日常。その全てが、ゆうの心を救っていた。
しかし、その穏やかな日々の中に、奇妙な夢とデジャヴュが侵食し始めていた。ゆうは毎晩のように、白亜の都市が崩れ、白髪の少女が悲劇的な破壊の中で絶望する光景を見る夢にうなされた。
時折、彼自身もその少女になったかのような感覚に襲われ、身体的な痛みや、男達に陵辱されるような不快な身体感覚の夢に苦しんだ。夢の中のそれは、精神的な混乱と困惑を伴い、ゆうを深く疲弊させた。
ある朝、いつものように目覚めたゆうの意識が、急激に揺らぎ始めた。頭の中に、膨大な記憶の奔流が流れ込んでくる。それは、白髪の少女としての、壮絶なまでの悲しみと怒り、そして絶望の記憶だった。
「違う、これは俺の記憶じゃない!」
ゆうは抵抗した。しかし、魂の奥底から湧き上がる悲しみと怒りは、彼の自我を蝕んでいく。彼の体が、まるで細く華奢なものへと変化していくかのような感覚に襲われた。男であるという彼のアイデンティティが、白髪の少女・みゆきという存在に上書きされていく。
「私は……みゆき……」
ゆうの口から、掠れた声が漏れた。彼は、自分がこの世界の創造主であり、過去の悲劇を引き起こした張本人であることを、全て思い出した。
絶望が、再び彼を飲み込もうとした。しかし、その時、彼の脳裏に、現代で経験した温かい思い出が鮮明に蘇った。ユイの無邪気な笑顔、さくらとの友情、けんじや雪菜との穏やかな日々。
「両親も友達も学校生活も全て嘘。嘘だったかもしれない。でも、幸せだった。今まで、味わったことのないほど。みんな、人間という名の人形だったかもしれない。でも、みんなとても優しかった。そこに、嘘はないと思う。」
怒りではなく、深い愛情と理解が、みゆき(ゆう)の心を突き動かした。彼女は、自らが創り出した「人形の世界」の呪いを解くことを決意する。
幻想魔法の力が、再び世界に満ちた。しかし、それは破壊のためではない。再生のため。
世界は解放された。人形たちは、元の姿を取り戻し、自由になった。
その後、みゆき・トレント・ヘクマティアルは、自らの名をあやの・トレント・ヘクマティアルに変え、新たな王国を築き上げた。彼女は、自身を護衛する親衛隊を幻想魔法で作り出し、過去に自分を傷つけた人々とも、彼らの後悔と償いの姿を見て、許しと和解の道を歩んだ。
「もう、大丈夫です。あなたも、辛かったでしょう?」
その言葉は、深い慈愛に満ちていた。
この王国が、後に吉本家の前身となり、あやのがその初代当主となった。彼女の物語は、吉本家の歴史の根源に深く刻まれ、やがて来る未来の世代に、光と闇、そして魂の再生の真実を伝えることになるだろう。




