12話:突然のラブラブ登校と、拓郎の悲鳴
翌日、神・日本学園の教室は朝から異様な熱気に包まれていた。生徒たちの視線は一点に集中し、ひそひそ話が校舎中に響き渡る。その原因は、まさしく今、教室のドアをくぐった二人の生徒にあった。
「拓郎、今日も愛しい私の隣で、この知識の府を味わい尽くすぞ!」
そう言って、凛とした表情のまま、拓郎の腕にギュッと自分の腕を絡ませているのは、全校生徒の憧れの的、生徒会長のミレイ・フレスターだった。そして、その隣で、顔を真っ青にして半ば引きずられるように歩くのが、紛れもない吉本拓郎である。
拓郎は昨日の出来事を夢だと思いたかった。宇宙戦艦大和。幻想魔法。そして、四葉様という真の姿を現したミレイの「めおとになりたいのか?」という言葉。それに続く自分の「はい、あります!」という大失言。あの後、四葉がどうなったのか、どうなったのかも分からないまま、彼は何とか家までたどり着いた。
しかし、朝、家の前で待っていたのは、満面の笑みを浮かべたミレイ・フレスター、その人だった。そして、拓郎が困惑する間もなく、彼女は拓郎の腕を掴み、そのまま離さなかったのだ。
教室に入ってからも、ミレイの一方的な「イチャイチャ」は続いた。机に座れば、彼女の体が拓郎の腕にさらに密着する。教科書を開けば、なぜかミレイの顔が拓郎の肩に寄り添う。拓郎が身動きを取ろうとすれば、彼女の腕がさらに強く彼の腕を締め付けた。そのたびに、あの甘く爽やかなリンスの香りが、拓郎の思考を麻痺させた。
(な、なぜこんなことに……)
拓郎の心は、激しく狼狽していた。クラスメートからの好奇の視線が突き刺さる。友人たちは遠巻きにニヤニヤしているし、女子生徒たちはひそひそと何かを囁き合っている。学校中の噂は、瞬く間に「ミレイ生徒会長と吉本拓郎、熱愛発覚!」で持ちきりだった。
昼休みも、拓郎はミレイに捕まり、有無を言わさず一緒に昼食をとらされた。帰り道も同じ。彼女は拓郎の腕を離そうとしない。
その日の夜、自宅のベッドに倒れ込んだ拓郎は、天井を見上げて、心の底から叫んだ。
「な、なぜこんなことに。重い。愛が……重い!」
彼が求めていたのは、神の力への探求であり、軍事応用への可能性。そして、あわよくば神装部隊への入隊だったはずだ。それがなぜ、こんな生徒会長との一方的な恋愛沙汰に発展しているのか。しかも、相手はあの神の国の盟主である九尾の狐なのだ。
拓郎の「平凡な」日常は、完全に宇宙の彼方へと飛び去ってしまった。彼の戦いは、神の力ではなく、突然始まった「盟主からの重すぎる愛情」との戦いへと変貌していた。




