11話:求婚と入隊、すれ違う想い
四葉は完全に固まっていた。求婚の証、という衝撃的な言葉と、自分の正体がバレたという事実が、彼女の冷静さを奪っていた。空中に浮かんだまま、九本の尻尾がわずかに震えている。
「お前……ワラワと、めおとになりたいのか?」
四葉様は、顔を赤らめながら、信じられないといった様子で拓郎に問いかけた。その声には、盟主としての威厳は微塵もなく、ただ戸惑いが滲んでいた。
拓郎は、四葉様の言葉に一瞬、思考が停止した。めおと? 結婚? そんなこと、考えてもみなかった。彼の頭の中は、神の力、軍事応用、そして神装部隊への入隊申請でいっぱいだった。
「ミレイさん!? 俺を神装部隊に入れてください! お願いします!」
拓郎は、地面に仰向けになったまま、必死の形相で叫んだ。彼の目には、神の力を操る四葉様の姿が、軍事オタクとしての新たな探求対象として、眩しく映っていた。彼女の力があれば、彼の軍事知識は、机上の空論ではなく、現実のものとなる。
二人の会話は、まるで平行線のように、全く噛み合わない。
周囲の神々やカミオタたち、そして神装部隊の隊員たちも、その奇妙なやり取りに手を止め、固唾を飲んでその行く末を見守っていた。宇宙戦艦ヤマトが地面に横たわり、巨大なゴーレムが静かに佇む中、この場に流れる空気は、どこかシュールで滑稽だった。
四葉様は、拓郎の言葉に、さらに顔を赤くした。彼の「入れてください」という言葉を、彼女は別の意味で受け取ったのだ。
「き、貴様!? ワラワと、めおとになる気があるのかないのか!?」
四葉様は、普段のクールな表情をかなぐり捨て、完全に感情的になっていた。九本の尻尾が、怒りと羞恥で激しく揺れる。
「はい、あります! あっ、いや、神装……」
拓郎は、四葉の剣幕に押され、反射的に「はい、あります!」と答えてしまった。しかし、すぐに自分の意図と違うことに気づき、慌てて訂正しようとする。彼の言葉は、再び「神装部隊」へと向かおうとしたが、四葉の耳には、最初の肯定の言葉だけが強く響いたようだった。
四葉は、拓郎の返事を聞くと、さらに顔を真っ赤にして、そのままフリーズしてしまった。盟主としての威厳は完全に崩壊し、ただの思春期の少女のように、その場で硬直している。
拓郎は、自分の発言がとんでもない誤解を生んでいることに気づき、血の気が引いた。彼はただ、神の力を学び、軍事に応用したいだけなのに。なぜ、こんなことに……。




