第三話:学園の闇と親友の涙
【場面:神鳴学園・校庭 – 昼休み】
神鳴学園の校庭。昼休み時間にもかかわらず、生徒たちの間にはどこか不穏な空気が漂っていた。先日のイシダの件以来、学園内では「急な魔力増幅」の噂が広がり、生徒たちは互いに疑心暗鬼になっている。
シロネは、そんな学園の雰囲気に心を痛めていた。
「なんだか、みんなピリピリしてるわね……」
「そりゃ、あんな薬の噂が広まれば、誰だって不安になるっしょ」
クロネは、ベンチに座りながら、いつものようにゲーム機を操作しているが、その目は時折、周囲の生徒たちへと向けられていた。
その時、近くで数人の生徒が、ヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。
「なあ、聞いたか? ヤマモトのやつ、また成績上がったらしいぞ」
「マジかよ? あいつ、この前Aランクになったばっかりじゃん」
「やっぱ、あの薬使ってんのかな……」
「まさか。でも、あんなに急に強くなるなんて、普通じゃありえないだろ」
シロネは、その会話に顔を曇らせる。クロネは、ゲーム機をそっと閉じ、山本が友人たちと話している方へと視線を向けた。山本は、以前よりも自信に満ちた表情で笑っているが、その顔色はどこか不自然に青白い。
【場面:神鳴学園・教室 – 授業中】
魔法実践の授業。生徒たちがそれぞれ、指定された魔法を行使している。 山本が、以前は成功しなかったはずの複雑な魔法陣を、淀みなく展開していく。彼の魔力は、以前とは比べ物にならないほど増幅されており、周囲の生徒たちを驚かせた。
教師も驚きを隠せない。
「山本! 見事だ! その調子なら、次回の実力テストではSランクも夢ではないぞ!」
教師の言葉に、山本は得意げに胸を張る。だが、その直後、彼の身体が大きく揺らぎ、額から大量の汗が噴き出す。
「はぁ……はぁ……」
山本は、無理やり笑顔を作ろうとするが、その表情は苦痛に歪んでいた。シロネは心配そうに山本を見つめる。
(やっぱり、無理してる……)
クロネは、山本の魔力に、以前よりもさらに不安定で、荒々しい波動を感じ取っていた。まるで、無理やりねじ伏せられた魔力が、今にも暴発しそうな、そんな危うさだった。
【場面:神鳴学園・廊下 – 放課後】
放課後。シロネとクロネが、ユキと一緒に下校している。 ユキは、どこか浮かない表情で俯いていた。
「ユキ、どうしたの? 元気ないけど」
シロネが優しく声をかけると、ユキはハッとしたように顔を上げた。
「あ、ううん……なんでもないよ。ちょっと、疲れてるだけ」
ユキは無理に笑顔を作るが、その目は泳いでいた。クロネは、そんなユキの様子をじっと見つめていた。
「……ユキ。何か隠してること、ない?」
クロネの突然の問いかけに、ユキの顔から血の気が引く。
「な、なんのこと? クロネちゃん、急にどうしたの?」
ユキは動揺を隠そうとするが、その声は震えていた。クロネは、ユキの目を真っ直ぐに見つめる。
「最近、学園で変な噂が流れてる。急に魔法が強くなる薬のこと。あんた、何か知ってるんでしょ?」
クロネの言葉に、ユキの表情は絶望に染まる。彼女の目からは、大粒の涙が溢れ出した。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい、クロネちゃん……シロネちゃん……!」
ユキは、その場にしゃがみ込み、嗚咽を漏らし始めた。シロネは驚き、ユキの肩に手を置く。
「ユキ……もしかして、あなたも……!?」
ユキは、震える声で、全てを話し始めた。学園での劣等感、周囲からの嘲笑、そして、偶然手に入れてしまった「フェミタル」という薬のこと。
「私……私、どうしても、みんなに認めて欲しくて……! 魔法が使えないなんて、言われたくなくて……!」
ユキの告白に、シロネは言葉を失う。クロネは、静かにユキの背中をさする。
「……バカだね、ユキ」
クロネの言葉は、冷たく聞こえたが、その表情には、親友を心配する色が滲んでいた。
「そんな薬に頼って、どうするつもりだったの? 身体がどうなってもいいって言うの!?」
「でも……でも、これしか、私には……」
ユキは、嗚咽を漏らしながら、必死に自分の行為を正当化しようとする。その時、ユキの身体から、微かに魔力が漏れ始めた。それは、以前の彼女からは考えられないほどの、不安定で強力な魔力だった。
クロネは、その魔力に反応し、ユキの腕を掴んだ。
「ユキ、もうやめなさい! その薬は、あんたの体を蝕むだけだ!」
「嫌だ……! 嫌だ! 私は、強くなりたい……!」
ユキは、クロネの手を振り払い、その場から走り去ろうとする。しかし、その身体は既に薬の副作用で限界に達していた。
「うっ……!」
ユキの身体が大きく揺らぎ、その場に崩れ落ちる。彼女の目からは、狂気に満ちた光が宿り始めていた。
「ユキ!?」
シロネが駆け寄ろうとするが、クロネがそれを制する。
「お姉ちゃん、危ない! もう、あいつは……!」
ユキの身体から、制御不能な魔法が暴発しようとしていた。
【場面:神・日本・治安管理局本部 – 夜】
治安管理局本部。宗介と拓郎が、緊急の報告を受けていた。
「報告します! 神鳴学園の生徒、ユキ・サトウが、学園内で魔力暴走を起こしました! 現場は現在、封鎖中です!」
報告を聞き、宗介の顔が険しくなる。
「やはり、学園にもフェミタルが……! 拓郎、急いで現場へ向かうぞ!」
「はい!」
二人は、急いで現場へと向かう。




