第5話 あやかしの姉妹
ある日の朝。
電話の音で目が覚めた。時計を見ると午前6時だった。
普段なら座敷わらしに起されているころだが、2人の姿がない。
妙な胸騒ぎがするなか、受話器を取る。
「あ、オレ、オレ」
詐欺かと思ったが、父だった。
滅多に連絡してこないのに珍しい。
「妖怪のふたりは元気か?」
父から質問が飛んでくる。
はっきり妖怪と聞こえた。
父も妖のたぐいが見えるらしい。
返答に困ったが、とぼける必要はなさそうだ。
「散歩にでも行ってるんじゃないか」
俺と妖怪の姉妹、3人で撮った写真が目に入った。
妖怪の姉妹の姿が消えている。
2人の間で、バカみたいな笑みを浮かべた俺だけが残っていた。
目的を達成すると、座敷わらしはその家を離れてしまうらしい。
2人が写真から消えたのが証拠だ。彼女らは、なんの痕跡も残さないと、父は言う。
慌てて家の中を探したが、2人の姿はない。
家電量販店など、ユイとヒナが出没しそうな場所を片っ端から探しまわったが、見つからなかった。
別れは突然やってきたのだった。
可愛らしい妖怪との生活は、しばらく続くと思っていたのに……。
座敷わらしが去ってからというもの、何をやってもうまくいかない。
生活はギリギリなんとかなっている。
だが、体調がすこぶる悪い。よく眠れなくなったせいだろう。
以前はどんなに疲れていても、泥のように眠ることができたのに、今では夜中になると必ずと言っていいほど目を覚ましてしまう。
睡眠不足のせいで疲労が溜まっていく一方だった。
堪えられない寂しさに襲われ、自殺を図ろうとしたが、なぜか失敗。
ユイとヒナに会えるかと思い、無理して高級テレビを購入してみた。
だが、何をどうしても会えない。
憑りつかれたように、座敷わらしを探し回る日々が続いていた。
疲労が極限を迎えたおかげか、今日はなんとか眠りについた。
だが、すぐに電話の音で起こされてしまう。
なんだか胸騒ぎがする……。
気が進まないが、受話器を取る。
病院からだ。
数日前、父親が倒れたらしい。
今日になって、容体が急変したようだ。
いま思えば、父は俺に何かを伝えたくて、滅多にしない電話をよこしてきたのかもしれない。
卍
病室では、医師と看護師が神妙な面持ちで立っていた。
今夜が峠だと医師から告げられた。
時間をもらい、父と2人だけにしてもらう。
力ない父の手を握りながら、最後になりそうな会話を交わす。
心電図モニターに表示された脈拍の数値が0になり、もうダメかと思った時だ。
夢か現か幻か。
ユイとヒナの姿がボンヤリと見えた……ような気がする。
2人の座敷わらしが、父の冷たくなりつつある手を握る。停止したはずの父の心臓が鼓動を始めた。
一言も発することなく、ユイとヒナはそのまま消えてしまった。
以来、彼女らの姿を見ていない……。




