第50話(最終話) 「文学少女、やっぱりまたやらかしてた」
ついに最終話です。
最後の“文学爆弾”、見事に詩音先輩らしいやさしいやらかしで締めてくれました。
全校生徒と先生、そして読者のみなさんにも、心からの感謝を。
卒業式当日。
在校生の拍手に送られて、三年生が退場していく体育館。
こより、まな、ゆいの三人は、式が終わったあとも、どこか落ち着かずにいた。
「……詩音先輩、今日だけは何も仕掛けてこなかったのかな」
「いや、そんなはずはない。絶対、最後に一発あるって信じてる」
「でももう何もないよ? 校舎中見たし、詩も読み尽くしたし……」
その時だった。
体育館の照明がふっと暗くなり、
卒業生が座っていた椅子の列に、次々と白い紙の束が落ちていく。
上から――
天井の照明用ワイヤーに仕掛けられていた小さなタイマー付き投下装置から。
「え!? え!? なにこれ!?」
「……まさか……っ!!」
紙の束には、それぞれ大きな文字が一行ずつ書かれていた。
並べて読むと――それは詩だった。
『きみがいた この時間が
ちゃんとここに のこってる
だからわたしたちは
未来に進んでいける』
式が終わったばかりの体育館に、拍手が起きた。
それは卒業式のものとは違う、驚きと、感動と、笑いとが入り混じった拍手。
放送室から先生の声が入る。
「今の演出は、卒業生代表・詩音さんからの“最後のメッセージ”でした。
……まったく、やりきってくれましたね」
その瞬間、三人は確信した。
「やっぱり最後の最後までやらかしてたーー!!」
「なんで体育館の天井にまで!? 何をどこまで準備してたの!?」
「ていうか先生もノリノリじゃん!!」
のちに、詩音先輩が卒業前にこっそり「校内許可申請書」に出していた資料が発見される。
申請名:《式場環境演出計画》
目的:“卒業の余白に、やさしい言葉を落としたい”
こよりは空になった体育館の真ん中で、
紙の一枚を拾って、読んだ。
『あなたが笑っていたこの場所を
わたしは詩にして、残していきます』
そして最後の一行には、小さくこう書かれていた。
“この物語が やさしく終わるように”
まな「……やっぱり全部、詩になってたんだね」
ゆい「でもまだ終わりじゃないよ」
こより「そう。これからは、私たちが“やらかす側”だもんね」
三人は笑った。
やわらかな光の中で、静かに、ゆっくりと幕が下りた。
最終句:
「最後まで 笑って泣いて 詩になった」
全力のやさしさをやらかし続けた詩音先輩、
それを追いかけ続けた三人娘、
そしてここまで読んでくださったあなたに、
“一行詩”の贈り物を。
『このページを閉じても
やさしさは きっと心の中にのこってる』




