第49話「文学少女、最後のホームルームで“みんなに渡した一行詩”」
今回は“卒業前日、一人ひとりへの一行詩”。
評価でもメッセージカードでもない、
「あなたを見てた」という証明のような詩――詩音先輩の優しさが最後まで光りました。
卒業式の前日――
三年生にとって、最後のホームルーム。
「卒業アルバムと通知表、配りますねー。
ついでに、これも……入ってます」
担任の先生がそう言って配った封筒の中には、
通知表と一緒に、小さな細長い紙片が入っていた。
手書きで一文だけ、さらりと書かれている。
しかし、内容は全員違っていた。
『朝、いつも一番に教室のドアを開けてくれてありがとう』
『何も言わずに消しゴムを貸してくれたこと、あれ、覚えてるよ』
『笑い方が、すごくあったかい人でした』
教室中がざわつき始める。
「……え? なにこれ……」
「うちにしか来てないのかと思ったら、全員に違うのが入ってる……」
「てかこれ、詩音先輩の字……!」
その時、こよりのポケットの中にも――
一枚の紙が、そっと折られて入っていた。
『あなたが笑ってくれると
それだけで この教室の空気がやわらかくなったんです』
「……」
何も言えなくなった。
まなも、ゆいも、目を赤くしながら黙って紙を読んでいた。
聞けば、詩音先輩は卒業前に
全クラス全員分の一行詩を手書きで仕上げ、担任の先生に託していたという。
「“これは通知表よりもずっと先に渡したかった”って言ってたわね」と担任。
その紙には“評価”は何もなかった。
でも、“見てくれていた”ことが、ちゃんと刻まれていた。
「通知表って点数じゃないんだね」
「うん。詩のほうが、たぶん本当の成績なんだと思う」
クラスメイトたちは、詩を見つめながら静かに笑っていた。
泣きながら、笑っていた。
そして、誰からともなく、こよりたちの席の方に集まってくる。
「ありがとう、あの人の詩。いつも楽しみにしてたよ」
「……あんたたち、今まで全部知ってたんでしょ?」
「“文学テロ対策本部”だったもんね?」
まな「……いや、“文学感謝委員会”に改名してもいいかもね」
ゆい「ほんとに。これはもう、“やらかし”なんて言えないよ……」
教室の空気が、あたたかかった。
春の前に、みんなが詩のなかにいた。
今日の一句:
「通知表 よりも胸に のこる詩」
次回、ついに最終話。
第50話「文学少女、やっぱりまたやらかしてた」
――卒業式当日、最後の最後に残された、ひとつの“仕掛け”とは。




