第48話「文学少女、校庭のベンチの裏に“春待ち詩”を刻んでいた」
今回は“ベンチの裏詩”。
静かな春の訪れとともに、詩音先輩のやさしさが木目にまでしみ込んでいました。
焼きペンで刻んだ詩……もはや魂ごと残してる感があります。
3月初旬。
桜のつぼみがようやくほころび始めた、放課後の校庭。
こよりたちは、中庭のベンチでひなたぼっこをしていた。
「……春って、急に来るよね」
「ついこの前まで、凍えてたのに」
「もうすぐ卒業式かぁ……」
そんな風に話していると、まながふとベンチの下をのぞき込んで、声を上げた。
「……えっ、ちょっとこれ見て!!」
ベンチの裏側、木の板に小さな文字が焼き付けられていた。
焦げ茶色で刻まれたその詩は、風化しかけていたけど、まだちゃんと読めた。
『春が来るたび 誰かの涙が乾く
だから あなたが泣いた日も
ちゃんと季節の中にあることを忘れないで』
「これ……絶対、詩音先輩……」
「なんでこんなとこにまで残してあるのよ……」
さらに調べてみると、近くの別のベンチにも、
“春を待つ人へ”というタイトルで詩が刻まれていた。
『つぼみがふくらむのは
外が暖かくなったからじゃない
中でちゃんと春を育てたから』
『卒業は終わりじゃなくて
“ここまで来れた”っていう証明書です』
あとから聞いた話では、詩音先輩が図工室の焼きペンを借りて、
「“古くなって捨てる予定のベンチに何かやってもいいですか”」と頼み込んで彫ったらしい。
図工の先生は言っていた。
「最初は“落書きか?”って思ったけど……あれは残す価値あるなと思ってね。むしろ修復して保管してるんだ」
今ではそのベンチ、“春ベンチ”と呼ばれて、校内で密かに人気スポットになっている。
そこに座っていると、なんだか背中を押してもらえる気がする――と。
まな「まさか詩を“家具に焼き付ける”とは……」
ゆい「やってることがもう、考古学の遺物みたいになってる……」
こより「でも、残してくれてありがとうって思っちゃうよね」
春が来る。
その手前に、ちゃんと詩があった。
今日の一句:
「ベンチ裏 春をひそかに 待っていた」
次回、第49話「文学少女、最後のホームルームで“みんなに渡した一行詩”」
卒業式前日――クラスメイト一人ひとりに手渡された言葉の、最後のやらかし。




